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*「猫を抱いて象と泳ぐ」 小川洋子読みながらひたひたと、読み終わってせつせつと、静謐な美しさを持った愛おしい物語が心の内でたゆとうている。静かに熱してくる感情の昂ぶりを抑えつつ、リトル・アリョーヒンの軌跡をともに歩み、彼が盤下で創り続けた棋譜の深く美しい旋律に傾聴し、グロテステクでせつなく哀しい世界の果てで涙したこの物語を思い返してみる。 伝説のチェスプレイヤー、リトル・アリョーヒンの密やかな奇跡。 *「海」 小川洋子この夏一番の暑さとなった今日の札幌の最高温度は34度。もとよりクーラーなどない部屋は、ただ座っているだけでも身体から水分が蒸発していくのがわかる。(水、水、水分補給をお忘れなく!)どこか涼しい場所へ避難しようかとも考えるが、クーラーには弱い。実のところ暑い暑いとふぅふぅ言いながら、短い真夏の感触を楽しんでもいるのだ。
暑さに身を置いたまま、せめて気分だけはと涼を求め、頭の中にひんやりとした風を吹かせてくれそうな小川洋子さんの『海』を読んでみた。 キリンはどんなふうにして寝るんだろう-。『新潮』掲載の表題作ほか、「博士の愛した数式」の前後に書かれた、美しく奥行きの深い全7作品を収録する。この世界の素晴らしさを伝えてくれる短編集。 *「博士の愛した数式」 小川洋子小川 洋子 「僕の記憶は80分しかもたない」 家政婦の『私』は10歳の息子と暮らすシングルマザー。彼女が組合から派遣されたのは、交通事故により記憶が80分しかもたないという『博士』が住む離れの家。 元数学者だった64歳の博士の記憶は、事故のあった1975年で途絶えている。それ以後は1分の狂いもなく、きっかり80分、蓄積されない記憶が繰り返されるだけだった。 博士は大事なことを忘れないようにメモに書いて、自分の背広に止めてあった。背広はメモでいっぱいだった。 「僕の記憶は80分しかもたない」というメモを読む度に、博士に突きつけられる現実があったろう。しかし、数学の美に寄り添い、そこに訪れる静かな至福に身を置く時の、博士の心は幸せだった。 数学を愛する博士がとりわけ愛したのは素数、と子供。 頭を撫でながら博士は10歳の息子に『√』という愛称をつけた。 博士によるとどんな数字でも嫌がらず自分の中にかくまってやる、実に寛大な記号が√なのだ。 博士といつも新しい家政婦である主人公の二人に息子ルートが加わり、繊細で優しく響く擬似家族的な三人の物語が動き出す。 *「冷めない紅茶」『冷めない紅茶』は第103回芥川賞候補となった表題作の「冷めない紅茶」と「ダイヴィング・プール」の2作品を収録。小川洋子は翌年『妊娠カレンダー』で第104回芥川賞を受賞している。 冷めない紅茶 その夜、主人公のわたしは初めて死というものについて考える。 それまでも彼女の周りに死がなかったわけではない。飼っていた金魚の死や、おじいさんが死があった。 おじいさんが死んだ時、主人公は消毒用のアルコールを買いに薬局へおつかいに行かされる。 そこで目にした人体解剖図と脳の立体模型、このふたつに対する主人公の嫌悪感は、逆に詳細な観察と思考へと繋がっていく。 *「薬指の標本」 小川洋子楽譜に書かれた音、愛鳥の骨、火傷の傷跡…。人々が思い出の品々を持ち込む「標本室」で働いているわたしは、ある日標本技術士に素敵な靴をプレゼントされた。「毎日その靴をはいてほしい。とにかくずっとだ。いいね」靴はあまりにも足にぴったりで、そしてわたしは…。奇妙な、そしてあまりにもひそやかなふたりの愛。恋愛の痛みと恍惚を透明感漂う文章で描いた珠玉の二篇。 薬指の標本 「標本室」で働く主人公のわたしと標本技師弟子丸氏、ふたりはグラスとグラスが触れ合うひそやかさで愛を重ねる。 硬質で高音な響きを奏でるのが、ふたりの愛のカタチだ。 すべは標本室に並ぶ標本のように整然としている。 | 1/1PAGES |
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