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*「黄色い目の魚」佐藤多佳子

黄色い目の魚
黄色い目の魚
佐藤 多佳子
線を引く。一本の線。真っ白い世界に何かが生まれようとしている。線を引く。連続して。輪郭を取り、線と線で埋められた空間に陰影ができる。確信を持って引いた線が、消えない傷のようであったり。意味あることとして大切な一本があったり。踊るように飛び跳ねていたり。白い世界に佇む、まだ出来上がっていない自分。
湘南の海が広がる海辺の高校で出合った二人は、絵を通して繋がり、やがて絵の向こうにいる相手に向き合っていく。恋とも違う、だけど強く真っ直ぐな感情の向うところ、視線の先には気がつけばみのりがいて悟がいる。感じるままにピュアに走り続ける16歳の二人を描く青春小説。
いつも心楽しく本の感想を読ませて頂いている信兵衛さんの信兵衛の読書手帖で見つけた一冊。
最初の線は悟、次いでみのりの線が白い世界にすべり降りる。
記憶の中に住む誰かの後ろ姿を追っている、そんなことはなだろうか。「りんごの顔」は悟が十歳の時、一度会ったきりの父親テッセイとの出会いと別れを描いた話。過ごした時間は短くても、その後悟の心にはテッセイが消えない。ここが始まりだ。
自分の周りの世界を呼吸するのが難しくて、時々息苦しさを覚える。何もかもが嫌いで爆発して、周りにゴツゴツぶつかって、痛くても平然として。だけど頑なな心だって決壊する時がある。表題作でもある「黄色い目の魚」に出てくるのは中学生のみのり。

二つの線が交わる。
「からっぽのバスタブ」から最後の「七里ケ浜」までの6編は、高校生になった二人を、視線を交互に変えながら描いていく。
悟には絵を描いていた父テッセイが、みのりにはイラストレーターの叔父通ちゃんの存在が大きい。テッセイも通ちゃんも周囲からするとちょっと眉を顰められる自由人気質。
同級生の女の子達と群れず、周囲に溶け込もうとしないみのり。自由で自分を子ども扱いも大人扱いもしない通ちゃんは、唯一心地良く呼吸できる居場所だった。一方の悟はサッカー少年。授業中もノートの端に似顔絵を描いているような男の子。
心に占める存在感が大きければ大きいほど、そこから離れて歩きださなければいけない時がくる。

悟とみのりはあることをきっかけに、絵を介在として繋がりを持つようになる。悟はみのりの絵を描く。みのりは悟の絵を見たいと強く思う。二人を結びつけているのは絵であって、恋らしき感情があるのではない。みのりの絵を描くということが、恋愛感情以上に強い感情で二人を引き寄せていた。
キライばかりだった心にたったひとつの“好き”をみのりは見つける。“好き”に出会う瞬間て好きだなと、この時のみのりの熱い思いを読みながら、“好き”なものの発見が好きな自分は思うのだった。
また、悟と出会い、“好き”を見つけて自分の内だけじゃない外の世界に開かれ、繋がっていくみのり。こうやって白い世界で描き続けられていた未完成な絵は風景を得る。
描く者と描かれる者、二人の間にはいつも絵があった。悟、絵、みのり。視線が絵を飛び越え互いの姿を捉えた時、二人の想いはどんな線を描き始めるのか。

みのりのように噴火型で取っ付き難い性格は、どうにも手が追えないという感じだけど、彼女がどんどん魅力を増していくのは、そこに嘘がないからなんだろうと思う。
悟視点の話も男の子が成長していく姿を描く挿話としては、ありがちといえばありがちだけど、微妙な感情が上手い具合に描かれている。似鳥ちゃんとの間に起こった出来事も、まったく悟が思うとおりなんだろうな。男の子だものねぇ。

ラストもよかった。思わずよっしゃ〜!と言いたくなる、後味の良い終わり方だった。
世界と向き合うには無力で不器用で未熟だけど、精一杯にとんがって、だけどすくっと立って真っ直ぐに前を見ている。ふつふつと若く沸き立つような感情は、夏の草いきれのようで(海の町が舞台だから潮風なんだろうけど)、人生の初夏を思わせる話だった。

(2006年6月14日読了)
| ■さ行の作家■ | 23:05 | comments(10) | trackbacks(7) | | |

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♯ コメント

私もこの本、すごく好きです。
>人生の初夏を思わせる話だった。
ほんと、そう思います。
さわやかでまぶしかったです。
| june | 2006/06/15 1:20 PM |
こんばんは、雪芽さん。
ぼくも、この本が気に入っています。

雪芽さんのレビューを読んで、ぼくがこの本を読んでいたときに感じながら、うまく言葉にできなかったことを、とても適切に表現してみえるのに感心しました。

主人公の二人には、このままお互いを大切にしながら、大人になっていってほしいなと思います。
TBさせていただきました。
| touch3442 | 2006/06/15 10:21 PM |
juneさんもお好きですか、この本。
いいですよね、私もすごく好きです。
文章を読んでいると二人の鼓動が聞こえてきそう。
遥かに遠い日々だな〜(笑)
| 雪芽 | 2006/06/15 10:44 PM |
touch3442さん、こんばんは!
男の子目線、女の子目線、ふたつの視点があって、
男女問わずどこかに共感部分を見つけることが
できる作品なのでしょうか。
交わった二人の想いが、未来へと続くといいですよね。
そんな願いを抱きたくなります。
人の想いの儚さを知っているだけにいっそう。
| 雪芽 | 2006/06/15 10:50 PM |
 こんばんは♪
 TB&コメントどうもありがとうございました◎

 白い世界に不器用な線が交差しながら
 どんどん引かれていき、
 その模様がジンジンと心に響く、
 ステキな物語でした☆

 ほかにもいろいろと本を読まれているようなので、
 また時々うかがいますね。
 よろしくお願いします。
 
| miyukichi | 2006/12/16 2:06 AM |
miyukichiさん、こんにちは。
コメントありがとうございます。
不器用さ、真っ直ぐさが魅力的な作品でしたね。
主人公たちが羨ましく思えてしまいましたよ。

はい、またいらして下さいね〜
今後ともよろしくお願いします!
| 雪芽 | 2006/12/17 12:30 PM |
雪芽さんこんばんは♪
お好きだって書かれていた本、よみましたよ〜。「二つの線が交わる。」て表現適切でとっても好きな言い表し方です★
やっぱラストがすごくよくって、なんだかとっても幸せな気分になりました。好きだなこの設定、この展開、この2人の立場が交互に紡がれるの。
心がとっても動くいい本でしたね♪♪
| やぎっちょ | 2007/07/10 1:32 AM |
やぎっちょさん♪
ラストの清々しいふたりの姿に、切なさやもどかしさがすっと消えていく、この心地良さが読んでいて嬉しいです。
幸せな気分になりますよね。
>心がとっても動く
そう!その言葉がぴったりです。
佐藤さんのデビュー作『サマータイム』もこれからの季節に読むにはいいですよ。
すごく好きなシーンがふたつあるんです。
思い出したらミントゼリーが食べたくなってきた。
| 雪芽 | 2007/07/11 10:21 PM |
★以前に書かれた記事ですが、私も最近読んだのでTBさせていただきます。
| やまけん(肩の力を抜いて) | 2007/08/04 11:07 AM |
やまけんさん、初めまして!
古い記事へのTBも大歓迎です、ありがとうございます。
なにしろ新しい記事がなかなか更新されませんので^^;
| 雪芽 | 2007/08/06 9:55 PM |

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