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*「失はれる物語」 乙一不気味な恐さであったり、グロテスクといえる光景であったり、全体のトーンは暗鬱としているように見える。表面だけをなぞれば、硝子張りの床下に広がる闇を覗き込むような感じではある。闇は人間の心の闇であり、冥界の闇でもある。
見えてくる闇はただ闇色ばかりであるのかというと、そうではない。気づけば優しさや温もりが物語の上に滲んでくる。人間不信や疎外感は、やがて闇に溶けていって、希望や笑いや明日という未来の明るい光へ向って歩き出す一歩に変わる。 こんなことって細部の違いはあれ現実にもあることだと、どうしようもなく痛みとせつなさを感じて読んだのは、表題作「失はれる物語」だった。 交通事故で全身不随となり、五感までも失った主人公である夫とその妻が、わずかに残った右腕の皮膚感覚を頼りにコミュニケーションするという、夫婦の情の軌跡を描いた物語。 明瞭な意識だけを残したまま五感を失うことの絶望。絶望しても涙を流すことはできない。自ら命を絶つこともできない。問い掛けに指先を動かしてイエスかノーか伝えるだけが外部との繋がりであって、自分の意志を訴えることはできない。いつ終わりがくるのか、自分の意志だけが存在する果てない闇を漂うことの苦悩。長い死を死んでいくことの怖れと絶望。 夫が妻へ示した行為、そこにある愛情に強く打たれる。 湧き上がってくるのは哀しいとか、せつないとかだけの、生半可な感情ではない。流れる涙に思う。涙は流す者にとって優しい。抱えきれない感情を外に押し出してくれる。でも、主人公の男は泣くことさえできない。 「手を握る泥棒の物語」と「しあわせは子猫の形」はコミカルな部分もあって、この短編集の中でほっとひと息つける話だった。こんな幽霊なら側にいてくれてもいいかな。 単行本は昨日読み終えたのだけど、この本は最近文庫にもなって、文庫版にはさらに2つの短篇が収録されている。こちらも読みたいと思い、今日本屋に寄って買ってきて読んだ。これなら最初から文庫で買ってもよかったのかと思うが、あの表紙の手触りは文庫では味わえない。 単行本にはあとがきが掲載されている。もともとはライトノベルという形態で発表されたものであるということだ。またそれぞれの作品へのコメントもある。ちなみに文庫にはあとがきがない。 作品自体でいえば、文庫に収録されている2編を読まなくてもあまり差し支えないかな、とは小声で言っておく(笑) (2006年7月15日読了) ←ー単行本の表紙 ♯ コメント| june | 2006/07/16 8:41 PM |
こんばんは〜、juneさん!
あれ、気がつきませんでしたか? デコボコしてたでしょ。触ると癖になります(笑) 本屋さんで触って確かめてみて下さいね〜♪ この本は書かれていることの割には、 救いもあったのでよかったですね。 黒乙一? おお、そんな呼び方があるとは知りませんでした。 | 雪芽 | 2006/07/17 6:39 PM |
はっ・・・・しまった!!
確か雪芽さんに前この本を紹介してもらったときに表紙のことをいってましたっけ??言ってたな。言ってた気がする・・・。猛烈にする。。。 買っちゃった【文庫】本。。。無念。スリスリしたかった。。。 この本江戸川乱歩的なにおいがしたのはあちきだけでしょうか?? ところで昨日はコメントのタイミングがよかったですね。伺ったら墨攻がUPされてて、コメント書いて戻ったらコメントが残っていました!オンタイムでした〜♪ | やぎっちょ | 2007/01/04 8:18 PM |
やぎっちょさん、スリスリ出来なかったなんて残念です〜
でも、私も買ったのは文庫でしたよ。 本屋に行って思い出したらスリスリしてみて下さいね。 江戸川乱歩とは、意外な感想です。 この受け手の感覚の違いが面白いですね。 行き違いすれ違いでしたが、オンタイムというところが、 なんだか嬉しかったです♪ | 雪芽 | 2007/01/08 5:33 PM |
雪芽さん こんばんは
私はスニーカーではない たぶん 文庫版で読みました。だから頬でも手でもすりすり感は味わえませんでしたが、思わず心ですりすりしたくなる一冊でした 笑 | yori | 2010/05/17 10:42 PM |
yoriさん、こんばんは。
文庫版にはボーナストラックがついていたりで、値段だけでなくお得感があって好きなんですが、ああ〜、このすりすり感は捨て難いんですよ。 でも、買ったのは文庫ですが(笑) とはいえ、中身の素晴らしさは変わりませんね。 | 雪芽 | 2010/05/18 8:57 PM |
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失はれる物語
書き下ろし1編に加えて、角川スニーカー文庫から5編の短編が収められているというのを見て、ちょっとびっくり。実はライトノベルと呼ばれるジャンルがあるのを、氏のあとがきを読むまで知らなかったのですが、スニーカー文庫といえば中学生くらいの子ど
| 本のある生活 | 2006/07/16 8:39 PM |
乙一と聞いて思い浮かぶ、
おどろおどろしいホラーではなく、
ちょっとした日常の中に見え隠れする暗闇を、
彼ならではの中性的な語り口で綴っている。
全体的に寂しい色合いの作品だけれども、
そこに共通するのは、「孤独」。
冒頭の『Calling you
| *モナミ* | 2006/11/04 7:44 PM |
失はれる物語
この本は「コンパスローズ」の雪芽さん、「まんだの読書日記」のまんださん、「活字中毒」のみわさんにオススメいただきました。ありがとうございました。
■やぎっちょ書評
大きな印象を感じたのは「この本なんだか江戸川乱歩みたい」ということ。
| "やぎっちょ"のベストブックde幸せ読書!! | 2007/01/04 8:10 PM |
乙一という作家の作品を先日初めて読んだ。
その前に乙一氏が別名で書いているという噂の、
覆面作家の短編集を読んでいるので、
初めてというのはちょっと違うか。
何にしても、それから更にもう一冊読んだ乙一作品、
それにしても「切ない系作家」といわれる乙一氏の
| 活字の砂漠で溺れたい | 2010/05/17 10:37 PM |
∴ 乙一の作品を
小説「失はれる物語」を読みました。
著者は 乙一
ミステリ系 短編6作品
どの作品も哀しさ、優しさが残りますね
そこまで ミステリ ミステリしていなくて
嫌いじゃなかったです
ちょっと不思議な世界観があって
なかなか面白かった
読みやすさもあって
私的には
| 笑う学生の生活 | 2011/11/14 11:39 PM |
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ありがとうございます
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ありがとうございます
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私もこの装丁にはすごくひかれたのですが、
表紙に何かからくりがあったのでしょうか?
全然気づきませんでした。図書館本だから気づかなかったのでしょうか・・。
本屋へ行って確かめてみます!
黒乙一は、読んでいて辛いことがあるんですが、
これは安心して読むことができました♪