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*「接近」 古処誠二

接近
接近
古処 誠二
桜の花の咲く頃。
誰が言うともなく「桜の花の咲く頃」という言葉が流行りはじめた。それは何を意味するのか。桜の花の咲く季節、沖縄に米軍がやってくるだろうという予測。決戦への決意であり、勝利を期する思いが込められていた。
果たして昭和24年4月、米軍は沖縄本島に上陸。この時、主人公安次嶺弥一は満で11歳になる国民学校の児童だった。戦況の悪化、誰がスパイであるかわからないという猜疑心が、兵隊、島民の心と行動に暗い影を落とす。
日本兵に成りすまし諜報活動を行なう日系二世米兵と、沖縄口を禁じられ本土の言葉を強いられる沖縄の少年弥一。異なる文化背景を持つ両者が戦時下の沖縄で接近する。
戦争という常ならないところにある沖縄を、弥一の目をとおして簡潔に、かつ静謐な筆致で描いていく。
空に上がる照明弾、飛び交う砲弾。いつ被弾し肉片となるかもしれない。発砲光の連続と爆音。死と隣り合わせの喧騒。行間にきな臭い煙が充満する。弥一の目はそれらを透徹した視線でみつめる。
彼は信じていた。島を守るためにやってきた兵隊を信じ、徴用にも率先して名乗りをあげる少年だった。桜の花の咲く頃には頼もしき友軍の兵隊が米軍を破り、島は平和を取り戻すと信じていた。
ある時は遊兵が避難壕を我がものとしようとしたり、頼りとなるはずの日本軍の兵に土地を取り上げられ、危険な道を追い立てられていく島の人たち。
流されるスパイの噂。誰が味方で、誰が敵か。疑心暗鬼にならずにいられない状況。
最後の場面で鳴り響く銃声音が、重く心に響いた。弥一が信じようとしていたものが壊れていくのを目にした叫びのようであり、せつなる思いを込めた詰問のようでもあった。あるいは信じたいとう渇望だったのか。
英語でもなく、沖縄の言葉でもなく、日本語という互いに自分のフィールドから離れた文化を土壌とした言語を介在として接近する。
この場合自分のフィールドが別にあるということが意味深い気がした。

あなたはどこからやってきたのですか?
ご両親はどこに住んでいるのですか?


敵、味方ということではない、個人に、その人自身に向けられた問い。弥一は個人によるところの信頼を、この接近の最後に願ったのかもしれない。

いわゆる戦争小説ということになのだろうけど、戦争がもたらした矛盾、猜疑心、欺瞞や、人間の心が持つ弱さを見つめるのが少年であることが、曇りない視点となって感じられた。
そう長くない本だけど、読み終わってからも心のどこかに残る、そんな話だ。

(2006年8月15日読了)
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♯ コメント

雪芽さん
こんばんは〜。
近代史に近いものでも読まれるんですか?嫌いじゃないです?
と言いますのも、おとといくらいにすごーい興味深いものを発見したので、良かったら見てみてください♪

戦前(昭和10年ごろ)の日本のカラー映像です。
http://swfblog.blog46.fc2.com/blog-entry-479.html
なんだかとっても感銘受けました。
興味なければ忘れてくださいね!
| やぎっちょ | 2006/08/17 12:11 AM |
雪芽さんこんばんは。
この本を読んだ後の感覚はまだ私の中に燻っています。
『遮断』ではさらに悪化していく戦況の中、彼らが最悪と恐れていたことが次々と起こってしまいます。
弥一にとってそんな島の、人々の姿を目にせずにすんだことは、皮肉なことですが、救いだったのかもしれません。
| たまねぎ | 2006/08/18 2:23 AM |
やぎっちょさん、観てきました!
とても綺麗な心打たれる映像ですね。
空襲に弱い東京の町を憂うカメラマンさんの思いと、
当時の女性や子どもの笑顔の対比がジーンときます。
桜、桜、桜、きれいだった。
近代史は詳しくないです。これは小説ですしね。
小説ならいつの時代でも。
でも、池波さんに興味を持ってから銀座も気になる場所。
「サライ」の臨時増刊に銀座散歩という特集があったので、
思わず購入してしまったくらいです。
昔の銀座の映像もあって、どんぴしゃなお薦めでした。
ありがとうございます。
| 雪芽 | 2006/08/18 10:23 PM |
たまねぎさん、読んでよかったです。
しんしんと降り積もり雪の静けさに似て、
声高に押し付けてこない作品ですが、
確実に消せない思いがいまもあります。
『遮断』を読む時は心して読まないといけませんね。
ずしんときそう。
| 雪芽 | 2006/08/18 10:27 PM |

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