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*「サマータイム」 佐藤多佳子

サマータイム
サマータイム
佐藤 多佳子
Book係数上昇中の瞳さんにご紹介頂いた1冊。
読んだのは9月初め。夏の名残りを愛おしむ時間の中で出会えたことが嬉しい。
瞳さんありがとう。
作者佐藤さんの本は『黄色い目の魚』(感想)に続いて2冊目。デビュー作でもある本書は、表題作の他、「五月の道しるべ」、「九月の雨」、「ホワイト・ピアノ」と四つの連作短篇から成る。
まず初っ端の「サマータイム」ですっかり心掴まれてしまった。
記憶に残された短い夏の思い出。一瞬の出会いでも、むしろいっときの出会いであったからこそ、夏の強烈な陽射しのように、いつまでも光の残像が残ることもある。
ふたりの少年とひとりの少女の、微妙なバランスが作り出す音色。3人の想いがどこまでも響き合う夏のトライアングルからは、読んでいてちりりとせつない子供時代の痛みと、リアルな息遣いを感じられる。

「サマータイム」
11歳の夏、小学五年生のぼくはプールで広一と出会う。
交通事故で左腕と父を失ったふたつ年上の広一は、どこか大人びた印象の少年。ジャズピアニストを母に持つ彼は、残った右手でだけでピアノを弾いて、ジャズの名曲サマータイムをぼくに聴かせてくれる。
ぼくと広一の友達関係にいつの間にか加わるのが、ひとつ年上の姉佳奈。勝気な少女は弟にいつも憎まれ口ばかりきいている。
ぼく、広一、佳奈が過ごした夏の日。ささやかな友情や淡い恋心は不器用なんだけど、幼いなりの真っ直ぐな思いが溢れている。
3人でミントゼリーを食べるシーンが印象的。
塩気の混じった海の味がするミントゼリーを、なにかの儀式のように夢中で食べ合う。夏を惜しむように、夏の終わりを予感しながら、ミントゼリーの海を飲み込んでいくのだ。共有される一抹の淋しさ。手の内から大切なものが零れ落ちていく。いま一瞬の儚さに彼らは気づいてしまう。このシーンのもどかしくせつない感じがいい。

夏が終わり季節は秋へと向う。3人の間を風がとおり抜ける。一陣の風。それは唐突に世界を変えてしまう。

とにかくこのラストが好きなのだ。すっと胸がすく心地良さがある。
自転車がこの物語では重要な意味を持っているが、最後にこんなふうに使ってくるとはね、う〜ん。これはぐっと心さらわれる鮮やかな展開だと思った。文字通り、恋心ひっくるめてさらっていくような展開になっているわけだが、王子が跨るのが白馬ではなく自転車という違いはあるにしても、この颯爽とした描写は恋愛もの(この本は恋愛小説というわけではないけど)ではまさに王道だろう。

表題作ラストで気持ちよく驚かされた後に、続く三つの短篇では最初の「サマータイム」の空白の時をゆっくりと埋めてくれる。
「五月の道しるべ」と「ホワイト・ピアノ」は佳奈が語り手。一見我がままな女の子のようではあるが、それは自分の感情をどう表現していいのかわからない、不器用さの裏返しでもある。少女という時代の壊れやすさと残酷さの心理や、種子のまま眠っていた恋心に気づく過程が丁寧に描かれている。
「九月の雨」は広一が語り手。
この作品に登場する冴えない種田さん、冴えないけど存在感はたぷりあって、納得するものがある。というかただ好きなタイプというだけか(笑)
種田さんに自転車の練習に付き合ってもらったら乗れるようになるかな。

本書を最後まで読み終えた時、思いは最初の「サマータイム」に立ち戻る。進、広一、佳奈が互いの心に触れ響かせた音色は、澄んで夏の空の青に溶けていく。清涼感が残る物語だった。

(2006年9月3日読了)
| ■さ行の作家■ | 19:22 | comments(4) | trackbacks(3) | | |

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♯ コメント

雪芽さんの感想、素敵だわ〜〜。
こちらこそ、ありがとう。
3人の微妙なバランスがいいですよね。
響きあう夏のトライアングル・・うわ、いいなぁ・・ひとりだと響かない・・三人だから・。

白馬の王子・・じゃない、自転車王子でしたね(笑)嬉しいラストでした。
そして一緒に載せられたお話、これがまた上手いですよね。
これを読んで、また夏の日に戻ってくる・・
来年の夏にもまた読みたい、夏の1冊ですね。
| 瞳 | 2006/09/28 8:43 PM |
瞳さんと共通の夏本がまた増えましたね。
季節が巡って夏が来て、「夏への扉」や「サマータイム」を思いお越し、同じ本が好きな人達のことも一緒に思い出す、その時の気持ちがとても幸せなんです。

夏になるとなぜかアーヴィングの「サイダー・ハウスルール」も読みたくなるんですよ。

この間瞳さんのブログで「月魚」の感想読ませて頂いたら、もう読みたくてうずうずしちゃいました。
余韻に酔いしれたというか、溜息でした。
本編はまだ読んでいないというのに^^;
| 雪芽 | 2006/09/30 11:41 PM |
これはどの話も本当によくって、大好きなんですが、
特に佳奈の話に惹かれたんです。
>不器用さの裏返しでもある。少女という時代の壊れやすさと残酷さの心理や、種子のまま眠っていた恋心に気づく過程
これです!これにやられました。
若い子が読んでもいいんでしょうが、今読んでも心にしみこんできました。夏になったらまた読みたいです。
| june | 2007/01/07 10:27 PM |
juneさん、こんばんは。
連作短篇ですが、ひとつひとつがいいですよね〜
この佳奈の不器用な恋心がまたよくて。
恩田さんの学園ものでもそうですけど、遠い時代を懐かしむとともに、忘れていた感覚が甦るようで、青春小説を読む時に感じる共通した思いがあるんです。
だからいまさらながら青春恋愛小説とか読むことにも、楽しみがあるんだろうなって。
| 雪芽 | 2007/01/08 7:11 PM |

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「サマータイム」佐藤多佳子
サマータイム よかったです。男の子と女の子のキラキラとした季節が大切に大切に描かれています。とにかくピュアです。今の私が読むと、そこに切なさだとかほろ苦い痛みを感じるのだけれど、中学生くらいの頃に読んだらどうだったんでしょう。もっとリアルに強く痛み
| 本のある生活 | 2007/01/07 10:25 PM |
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サマータイム ■やぎっちょ書評 最近覚えた佐藤多佳子さん。3冊目のこの本はデビュー作だとか。 本屋さんで買ったんだけど、最近はちょっと薄い本がいい気分。体が薄さを求めてます。なんで?梅雨だから? 内容も気軽なのがいいな。 この本は純恋愛ではなくて、
| "やぎっちょ"のベストブックde幸せ読書!! | 2007/07/13 1:23 PM |
読書メモ『サマータイム』『でかい月だな』
『サマータイム』は佐藤多佳子のデビュー作。すっきりしていて、それでいて4つの短編がうまい具合にからまっていて、面白かったです。『しゃべれどもしゃべれども』や、『一瞬の風になれ』よりももしかして好きかも知れない、と思いました。けど爽快だなぁ、佐藤多佳子
| 自由の森学園図書館の本棚 | 2008/11/17 12:12 AM |
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