本や映画の感想、日々の雑感などを徒然に書いております
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*「邪魅の雫」 京極夏彦

「殺してやろう」「死のうかな」「殺したよ」「殺されて仕舞いました」「俺は人殺しなんだ」「死んだのか」「―自首してください」「死ねばお終いなのだ」「ひとごろしは報いを受けねばならない」昭和二十八年夏。江戸川、大磯、平塚と連鎖するかのように毒殺死体が続々と。警察も手を拱く中、ついにあの男が登場する!
「邪なことをすると―死ぬよ」


鉛のように重く、暗鬱として黒々とした雫。
心の水面を揺らす邪悪な想念は形を帯びて、人を殺める。

重かった!というのがまず読んでの感想だった。物理的な本の重みに耐えつつ読むのは、すでに京極堂シリーズにおいてはあたり前な感がある。重い本を抱え、読む体勢に苦慮し、項を繰っていくわけだ。
最初は4、5日掛けてちびちびと100項程読み進めていたのだが、どうにも頭の中に人物相関図がうまく描けない。なので残りの大半は昨日の休みでいっきに読む。
かなり複雑に錯綜した構成になっている。最後のほうにきて京極堂がバラバラな世界を再構築してみせるまで、誰が誰で、誰が誰と繋がっているのかよくわからないまま、作者にいいように翻弄され、惑わされ、錯綜するプロットの糸に絡め取られてしまったような気分だ。
榎木津礼二郎の親類が彼に内緒で事務所の益田に持ち込んだのは、礼二郎に関する依頼だった。ことごとく見合いの相手方から断りが入るのだという。実際に見合いをした後ならわかるが、なんせあの榎木津であるからして、会う前にというのが解せない。それも連続してだ。さらには見合い相手の妹が毒殺されたという話まで。これまた続く毒殺事件。
見合い話の謎は益田、関口のふたりが、連続毒殺事件は木場の後輩である青木が追い、やがて無関係なはずの両者がひと所に顔を揃えることになる。
これに先んじて、例のごとく関口は自身の小説の書評のことで気を病み、京極堂に散々な言われようなのだが、後々思えばこの時の講釈にも重要な意味があったわけだ。
人間ひとりにひとつの世界がある。ひとりひとりの世界で違う物語がある。誰もが自分の世界から物事を見ている。確かにそうなんだけど、これは最後までわからないはずだ、わかるわけがない。

榎木津の若かりし日の恋愛ネタが出てくるのも興味深い。常人離れした美貌の持ち主であるから、見た目は充分想像できても、中身を知ればちょっと難しそうだなと思ってしまう榎木津のラブロマンス。ちゃんとあったんですね。
表舞台に登場するのは僅かでも、最後はやっぱり彼だった。
「僕は君が嫌いだ」、この言葉をこうも見事に言ってのける、しかも相手の状況において優しさを含んだ最良の言葉として言ってのけるのは、榎木津だけだろうと思う。
誰かを愛する想いの途上で、他者への黒い雫が溢れんばかりなったとして、邪な思いが湧き上がるのを止められないことを、いかに責め得るのか。それでもそのことで起きた連続毒殺事件の果て、最後にかの人が受けた罰の重さは、どんな罰よりも重かったはずである。この本の重みよりもずっとずっと比べるべくもなく。
ラストはいささかやるせない。

今回はお馴染の榎木津や木場の登場が少なく、キャラ的にややパワー不足な気もする。次回作「鵺の碑」ではもっと活躍してくれるものと期待しよう。
京極堂シリーズは「絡新婦の理」までは読んで、その後は読んでいなかったな。もう一度最初から順番に読み返してみたいところだけど、まずは前作の「陰摩羅鬼の瑕」からか。
(2006年10月8日読了)
| 京極夏彦 | 18:57 | comments(15) | trackbacks(7) | | |

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♯ コメント

なんだか、遣る瀬無いお話でしたね。
本当の悪人といえるのはひとりだけ?

最初の一行から、ずっと全編が伏線で、すべては「憑き物落とし」のシーンに収束されるような、台風のような伏線の渦の中心は京極堂、みたいな感じが、この作品では特に強く感じました。

そして、それだけじゃなく、各キャラたちも魅力的だしね。
| hoy. | 2006/10/09 10:44 PM |
こんばんは♪
コメントとトラバありがとうございました!
今回の榎さんはいつもの榎じゃなくて、正直淋しかったです。
次回作では今回の分まで暴れて欲しいですね^^
| Ray | 2006/10/10 1:03 AM |
hoy.さん
悪意より殺意が先行してしまう、誰かのためにと。
そんなところが人の世の哀しさの写し絵のようでした。
台風の中心で静かに佇むのは京極堂!?
まさにおっしゃるとおりでしたね。
その周りでは大変そうでしたが、青木君が凛々しく成長して、なんだか頼もしかったのが印象的です。
数少ない爽やか系青年。
| 雪芽 | 2006/10/11 8:39 PM |
Rayさん、こんばんは。
今回は自分に関係しているからなんでしょうかね、
榎さんはポイント出演でちょっと寂しかったですよ。
次はどうなんでしょうね。
| 雪芽 | 2006/10/11 9:09 PM |
こんにちは、はじめまして。すずの娘です。
「邪魅に雫」の榎木津に関して雪牙さまの意見をお聞きしたいです。

榎木津は、復員後、どうして神崎宏美に連絡しなかったのでしょうか?

徴兵されなかったら結婚してたかもしれない女性だし、彼女の写真も燃えないように中善寺に渡しているし、大切な女性だと予想できるのですが・・・。なにより、榎木津は彼女の戦後の消息を知っていたようですし、彼から連絡とってもよさそうなのになぁと思いました。

関口が「鞄」の話をしているときに、「好きなんだが、繋がっていることが辛くなる。憎んでもいないし嫌ってもいない、繋がっていたい気持ちに変りはないのに、繋がりを切りたくなる瞬間と云うのはある。」と言ってます。榎木津にとって、神崎宏美は、好きだけれど離れていたい存在になり、だから自分から連絡しなかったのかな、と私は想像しました。

雪牙さまはこのことについてどう思いますか?

| すずの娘 | 2006/10/18 1:47 AM |
すずの娘さん、はじめまして!
コメントありがとうございます。

なぜ榎木津がというそこですか、うわ〜難問ですね。
常人離れした榎さんの思考回路に、女性が、しかも恋愛の過去が存在したこと、これが今回の大きな衝撃でしたから。
神崎宏美は榎木津を愛するとともに、怖れも抱いていたんじゃないでしょうか。ちっぽけな自分のすべてを見透かされているような気がして、あの硝子球のような目で視られると。
戦後、彼女の身辺が大きく変化する。
がむしゃらに宏美が働いたのは、榎木津の目に晒された時、彼と対等であると視られたかったこともあるのかな。
(対等というのは京極堂の言葉から)
榎木津は復員後、彼女の消息を知る中で、彼女の内面の変化も感じ取ったのでは?
榎木津と対等でありたい、負けたくないという思いから、愛する気持ちが違う方向へいってしまった。素直に好きという気持ちを榎木津に向けることができる宏美であったならば、榎木津は会いに行ったかもしれないと思うのですよ。
らしくなく楽しくもないことをやろうとするくらいだから、好きなんでしょうけど、すずの娘さんが書いていらっしゃるように、側に一緒にいられる存在ではなくなってしまったんでしょうね。
宏美は榎木津に、ただ好きとだけ言えばよかったのに、それだけでよかったのに。

男と女の気持ちは結局当人にしかわからないし、ほんとのところは作者の京極さんのみぞ知るというところでしょうか。
| 雪芽 | 2006/10/18 9:22 PM |
雪芽様、
答えてくださってありがとうございます。すごく参考になりました。
私は、「榎木津は、復員後、どうして神崎宏美に連絡しなかったのか」という疑問もありましたし、「邪魅に雫」のラストの解釈にも困っていました。雪芽様のコメントは、この両方の疑問を解決するのにとても役立ちました。本当にありがとうございます。
それでは、また御縁がありましたら。
| すずの娘 | 2006/10/19 12:53 AM |
すずの娘さん
ご丁寧にありがとうございます。
少しでもお役に立てたのなら嬉しいです。
自分で読んだ時は、会わなかったことに深い疑問も感じず、なんとなく納得してしまっていたので、考えてみるきっかけを頂けてよかったです。
またのご縁をお待ちしております!
| 雪芽 | 2006/10/21 10:52 PM |
こんにちは。
遅ればせながら、ようやく読了です。
購入してから2ヶ月。最初の頁を開くまで、心の準備期間をおいて…チカラ、入りました(笑)

このシリーズも重なりすぎて、ちょっと食傷気味?
情報伝達手段がない時代の話には、もう無理があるかもしれない。
「嘘と勘違い」の本ですね。
| juzji | 2007/01/14 2:53 PM |
juzjiさん、こんばんは。
読了おめでとうございます!
京極さんの作品はぶ厚いので、読了お疲れ様ですと申し上げるほうが合ってる気がしますが(笑)
本を前に瞑想2ケ月のjuzjiさんを想像してしまいました。
もちろんそんなわけないですね。
読み始めるまでの決心、要りますからね〜

>「嘘と勘違い」の本
まさに!
いまなら携帯もあるし、情報量が凄いですからね。
| 雪芽 | 2007/01/16 10:06 PM |
濃厚な京極ワールド、久しぶりに堪能しました。
ストーリー、中盤以降に繋がって、やっと読みやすくなりましたね。
最後のシーン、読んでいて切なくなりました。

再読されるのですか、…すごいです。
あ、「絡新婦の理」と「陰摩羅鬼の瑕」の間に「塗仏の宴 宴の支度」「塗仏の宴 宴の始末」(上下巻)がありますよ。読まれました?。
| 藍色 | 2007/01/29 11:07 AM |
“雪芽さん、こんにちは。”
の、ごあいさつを忘れてました…(恥)。
| 藍色 | 2007/01/29 1:18 PM |
藍色さん、こんばんは。
しばらくぶりに読んだ京極ワールドでしたが、
すんなり濃い世界に入っていけました。
懐かしい顔に会うのが嬉しくて。
最後はちょっとせつなかったですね。
再読はしたい気持ちだけはあるんですが、
相当気合を入れないと無理かもしれません。
その3冊は未読なんですよ。
まずそちらを読まなくてはいけませんね。
| 雪芽 | 2007/01/30 9:24 PM |
雪芽さん こんばんは
関口と京極堂の語り合い部分が秀逸ですね。評論家に対する一家言、京極夏彦さんご本人の本音かも、と思いました 笑
| yori | 2009/10/18 10:20 PM |
yoriさん、こんばんは。
関口相手の京極堂の薀蓄語り、長広舌はシリーズの楽しみのひとつ。
毎回読みながら感嘆してしまいます。
それにしても評論家には、京極さんもいろいろ思うところあるんでしょうねぇ(笑)
| 雪芽 | 2009/10/21 9:18 PM |

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