本や映画の感想、日々の雑感などを徒然に書いております
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*「村田エフェンディ滞土録」 梨木香歩

村田エフェンディ滞土録
村田エフェンディ滞土録
梨木 香歩
土耳古(トルコ)皇帝の招きにより、彼の地に歴史文化研究のため赴いた日本人留学生村田の土耳古滞在記。

村田は『家守綺譚』の中で、主人公綿貫の友人として出てきた人物である。滞在先の土耳古から便りを送って寄越したのであった。
『家守綺譚』は美しい日本語に魅了され、旧き良き時代が持つ風情の居心地の良さに酔いしれた作品だった。だから作中に登場した人物が主人公となる本があると知り、どうしても読みたいと思った。いったん読みたいとなると、なんとしても読まねばという、一歩進んだ強い気持ちが生じてくる。
となれば、あとは行動あるのみ。
仕事帰り、夜の街をガタゴトと走る市電に乗り、往復1時間かけて図書館に向う。そこまでして読みたいものかと自分の行動を嗤いもするが、そこまでしても読んで良かったと、しみじみ思った読後感だった。
村田は滞在先の土耳古で、英国人ディクソン夫人の屋敷に下宿することになる。
屋敷には独逸人(ドイツ人)考古学者のオットー、発掘物の調査に当たる希臘人(ギリシア人)研究家ディミィトリス、下宿人のために料理や下働きをする土耳古人ムハンマドといった、国も宗教も異なる個性的な住人達がいた。
彼らとともに文化を論じ、宗教を論じ、食卓を囲みながら語り合う。新鮮な驚きと未知なるものへの好奇心に溢れ、戸惑いもするが、時に数少ない日本人としての気概を持って異文化に向き合っていく若き村田の姿が、いかにも希望に満ちていて好ましく思える。

日常と怪異が交錯する様を、文筆を志すものとしての情緒と観察によって、飄々と自然体で受け止める綿貫に対し、村田は歴史研究の学徒として、異文化を歓喜と情熱を交えて受け止める。
こんなエピソードがあった。
村田はある時、オットーに案内されてエーゲ海近くの村の発掘現場を見に行く。発掘の手伝いをしながら、村田が抱いた思いとは。

立ち上がってくる古代の、今は知る由もない憂いや小さな幸福、それに笑い。〜そういう日常の小さな根のようなものから醸し出される感情の発露の残響は、こうして静かに耳を傾けてやらないと聞き取れない。
本文P56より


遺跡や遺物から心の中に直接こだまし語りかけてくるような充実に、私は幸せであったと高揚する村田の心境が、ぴたりと自分の思いと重なり、読む私も幸せであった。
遺跡や遺物に対する思いが一緒の村田にすっかり共感してしまう。いっきに村田が好きになる。出来ることなら友達になりたいものだと思う。まずはお友達からお願いします!とは言えない、文字が命を与えた産物ということがつくづく惜しい。いかにも惜しい(まだ言うか)
遺跡で発掘した羅馬硝子を手に写真に納まる村田の、得意満面の嬉しそうな笑み。なんてかわいいのだろうと思ってしまう。

エジプトのアヌビス神、キツネの神である日本の稲荷。ここに出てくる神はどこか人間っぽさを持って描かれている。異文化の人が交流するように、異教の神同士も気脈を通じよしみとなるところが面白い。が、人間世界はそうもいかないようで、難しいものだ。

ディクソン夫人からの手紙を読むあたりは辛い。ほんとうに辛かった。一度に読めるものではないよね、とこれまたすっかり村田に共感する。新鮮な驚きと楽しい喧騒のうちに過ぎた土耳古での出来事が、懐かしさと悲しさがない混ぜになり甦るこの終盤が凄い。理想と希望を胸に考古学を志している若き日の村田と、現実社会において疲弊し孤独を感じる後年の村田。この落差があるからこそ、土耳古を思う時、悲しみが増すのだ。

忘れてはならないのがムハンマドに道で拾われた鸚鵡(オウム)。この鸚鵡は覚えている数限られた言葉を、絶妙の選択とタイミングで喋る。あまりに的を得て住人達を怒らせることもあれば、笑いを誘う存在でもあった。
最後に鸚鵡が村田を前に発した一語。凝縮された言葉が弾ける。

 ↓ネタバレにつき反転してお読み下さい
友よ

ここにきてこの言葉かと、その使われ方の見事さに思わず唸る。泣かせる一語だ。友の顔、友の声、遠い記憶がいっときに押し寄せ、村田を包み込む瞬間である。時代も人も還らない。万感の思いが宿る一語だ。

それからこの本には『家守綺譚』の綿貫と高堂も出てくる。3人で語らうこともあったろうかと想像してみるのは楽しい。
図書館で借りた本なので、『家守綺譚』の単行本(装丁は断然こっち派である)と合わせて購入し、手元に置いておきたい本だ。

(2006年10月24日読了)
| 梨木香歩 | 12:43 | comments(4) | trackbacks(3) | | |

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♯ コメント

あ、あのトルコに行ったっていう友人のお話ですね!
なんだかメッチャ気になります、この本。
雪芽さんの書評読んだら面白そうだし、読んでみたくなっちゃいました。そのうちに、ね。
ではでは!
| hoy. | 2006/11/05 9:45 PM |
hoy.さん、そうですよ〜、あのお友達のお話です。
最初はね、ふむふむって感じで読んでいるんですが、
最後にぐっときましたよ。
そのうちに、この本が呼んでいるなって思ったら、
読んでみて下さいね。
| 雪芽 | 2006/11/07 9:51 PM |
ついにこの本に呼び止められました。
図書館でぶらぶらしてたら、棚から、
「おいこら、ちょっと待たんかい。忘れてへんか?」
とでも言うように目についてしまいました。
このラスト、たまんないっす。
じんわりきて、しばらく立ち上がれないです。
| hoy. | 2007/01/28 12:17 AM |
hoy.さん、本に呼ばれましたか?(笑)
そこで通り過ぎるようじゃ男がすたる。
がし!っと受けて立ったというわけですね〜、さすが。
ラストはたまりません。
いま思い出してもじわんとなります。
| 雪芽 | 2007/01/28 12:10 PM |

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?ĥ????
この本は『コンパス・ローズ』の雪芽様に(かなり前にだけど)紹介いただきました。thanks! 梨木さん、やっぱイイです! 普段は乾き気味の心が、つかの間シットリと潤ったような気がする。 かなり良好な保湿成分がタップリ配合されている。 『家守奇譚( → 前記事)
| ふくらはぎの誘惑曲線 海賊版 | 2007/01/28 12:22 AM |
村田エフェンディ滞土録 梨木香歩
村田エフェンディ滞土録 ■やぎっちょ書評 ほんぶろでもオススメに指定されていたこの本。本屋さんで文庫化されているのを見つけて手にとってみました。奥付を見ると、やはり単行本が発行されてから3年が経っています。3年が標準なのですねぇ。 梨木さん初読みです。
| "やぎっちょ"のベストブックde幸せ読書!! | 2007/05/31 10:15 PM |
「村田エフェンディ滞士録」 梨木香歩
羅馬硝子、アジ、醤油、馬、キツネ、宗教、革命、眠れぬ一夜、漆喰の壁、黒曜石の瞳。異国の地にて想うこと。異国の地だからこそ想うこと。そして、帰国した地にて胸に過ぎること。時は1899年。トルコの首都スタンブールに留学中の村田君は、毎日下宿の仲間と議論し
| 読書とジャンプ | 2007/07/07 2:07 PM |
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