本や映画の感想、日々の雑感などを徒然に書いております
ネタバレもあるので未読の方はご注意ください
<< July 2020 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 >>
RECOMMEND

 極北ラプソディ 

  
読んだり観たり
雪芽さんの読書メーター 雪芽の最近読んだ本 雪芽さんの鑑賞メーター 雪芽の最近観たビデオ
読みたい!聴きたい♪
Blog散歩道
今年読んだ本
将棋○名人戦・順位戦●
≡ SPONSORED ≡
<< 「ナイチンゲールの沈黙」 海堂 尊 | main | 「風が強く吹いている」 三浦しをん >>

*スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

| - | | - | - | | |

*「センセイの鞄」 川上弘美

センセイの鞄
センセイの鞄
駅前の居酒屋で高校の恩師と十数年ぶりに再会したツキコさんは、以来、憎まれ口をたたき合いながらセンセイと肴をつつき、酒をたしなみ、キノコ狩や花見、あるいは島へと出かけた。歳の差を超え、せつない心をたがいにかかえつつ流れてゆく、センセイと私の、ゆったりとした日々。
「BOOK」データベースより


淡々とした想いに揺れながら、ゆったりと流れていくセンセイとツキコさんの時間が、独特の淡い文章で優しく描かれている。
馴染みの居酒屋で会えば話もするが、とくにいつとは約束はしない。ふたりの距離は近くもなく遠くもない。
ツキコさんは40歳少し前で、センセイとは30と少し離れている。
かつてはセンセイと教え子でもあった。酒の肴の好みが会う、たぶん人との間合いの取り方も似ているに違いないと感じる近しい相手ではあるが、普通に考えて(この普通という言葉が曲者である)男と女として出会うには距離がある、無理がある関係だと考えるだろう。
確かに初めは恋に発展するような兆しはない。ふたりの間には酒を介在に、お馴染の居酒屋でよく会う呑み仲間としての気安い空気が流れている。
ところが一般的な(これもまた曲者だ)固定観念を超えて、ひとつになることはないと思われたふたりの距離が間合いを狭めていく過程、スキな気持ちが深まっていく過程が、読んでいてしみじみ染みてくるのだ。
花見の後に同級生の小島くんと土手を繰り返し歩きながらセンセイを想うツキコさん、何かの境のような場所だという干潟でのセンセイとツキコさん、ふたりを取り巻く淡々と美しく朧な情景が心に残る。この世界では時間はゆったりと急がずに流れているんだなと思う。
ツキコさんの気持ちの揺れ加減の描写が絶妙だ。ぽかりと心細い想いに満たされたり、ぼんやりセンセイを想ったり、駄々をこねてしまうほどに気持ちが昂ぶることもあれば、わざと会わないよう避けてみたりする。いくつになってもじたばたしてしまう恋する者の気持ちが、痛いほどに伝わってくる。

想いがいかばかりであっても、人に積もる時間は残酷なまでに現実を突きつけてくる。
ツキコさんの目に映るセンセイの老い。目を塞ぎようがない老いを前にすることになるのだ。

「ずっと、でなければ、ツキコさんは満足しませんでしょうか」

センセイの言葉にふいを突かれる。ツキコさんと同じだ。揺れるツキコさんと同じように、何事にも自然体で受け止めているかに見えたセンセイにも、戸惑いや躊躇する気持ちがあったのだとわかる。人が自分の残りの人生を見定め、生を考えるようになるのはいくつ位からだろう。死が見えた時、生もより鮮明に見えてくるものなのだろうか。

共に白髪の生えるまで、が叶わない恋。
30歳と少しという年齢の開きが問題なのではなく、老いこそがふたりの障壁なのだろうと思う。惹かれ合っても、単純に男と女として恋に向っていけないもどかしさがある。居酒屋で居合わせた男が吐いた辛らつな言葉が、世間というものの見方かもしれない。それでもスキになってしまう。想いが深くなっていくのを止められない。人との出会い、人をスキになることの計り知れなさに、思いを巡らせた話でもあった。

遺されたセンセイの鞄。いつでもどこへでもセンセイのお供をしていた大切な鞄には、きっとツキコさんとセンセイのふたり分の思い出が染みこんでいるに違いない。
淡々としたせつなさの余韻と、ほんわりとした温かな思いのする読後感だった。

(2006年11月5日読了)
| 川上弘美 | 17:22 | comments(10) | trackbacks(5) | | |

*スポンサーサイト

| - | 17:22 | - | - | | |

♯ コメント

こんばんは。私は恋愛小説はほとんど読まないのですが、この本は良かったです。私とツキコさんと年が近いし、いろいろ共感することがありました。ところで雪芽さんとリンクを張りたいのですが、いかがでしょうか?
| 菱沼 | 2006/11/12 5:35 PM |
2人の距離感はあたしにとって理想の距離感です。
つかずはなれず、いい塩梅。
馴染みの居酒屋で
待ち合わせた訳ではなく
たまたまばっちりあって酒をのみかわす。
そこに濃厚な時間がある気がして
特別に思えます。
センセイの優しさに包まれて
読んでいる間、なんとも柔らかくいい気分でした。
最後がビックリして
一瞬泣きそうになって
一瞬腑に落ちな気持ちになったんですが
よくよく思うとベストな終わり方だなって納得。
今のところ数少ない川上さん読了本の中で
1番デス(>_<)
| 弥勒 | 2006/11/12 9:25 PM |
菱沼さん、こんばんは〜
実はもっとドロドロした感情もある大人のふたりかもしれないけれど、川上さんの文章はさり気なく描いていて上手いです。
リンクは大歓迎です!ありがとうございます。
こちらからもリンクさせて頂きますね。
| 雪芽 | 2006/11/12 11:22 PM |
弥勒さん、こんばんは!
ふたりの距離感いいですよね。
別に恋心がなくてもいいのでたまに偶然出くわして、
一緒にお酒を呑んで気のおけない話をする、
そんな関係もいいな〜
川上さんの本はこれで3冊目。
いまのところ私の中でもベスト1ですよ。
| 雪芽 | 2006/11/12 11:34 PM |
人を好きになることの奥深さといったら、そりゃぁ深い深いですよね。
ツキコさん、これから10年とか20年とか経ったら、他の経験と一緒でセンセイと過ごした時間も「思い出」になっちゃうじゃないですか。
それが悲しいくて切ないけど、けど、生きているってことでもあって、センセイを好きになってよかったと思えることでもあるんじゃないかなぁ、なんて思ってます。
深読みしすぎか・・・。
| やぎっちょ | 2006/11/13 11:19 PM |
こんな、精神的に深く繋がれる関係を持てる相手って、ほんと稀少なのかもしれませんね。
それが、たまたま歳が離れた人だった。
そういうのもまた、アリなのかもしれないと、深く考えさせられる、いい雰囲気の作品でした。

うん、よく行く居酒屋で、偶然だけどよく一緒に鉢合わせして、気のおけない会話ができる異性の飲み友達、なんてのもいいですね!
| hoy. | 2006/11/15 2:18 AM |
やぎっちょさん。
深いですね〜、人を恋いうる不思議。
ツキコさんも年々歳を重ねていくのでしょうね。
30歳と少しあったセンセイとの歳の差が埋まっていく。
センセイとの「思い出」に、幾層にも新しく出来た「思い出」が重なっていくとしても、大切なものは決して失われないと思うのです。
生きている人間はなんたって生きていかなくちゃいけない。
だからこそ、愛おしむように思い出す記憶があるというのは、馴染んだセーターのような温もりとして、ツキコさんを包んでくれるかなと思いたいし、願いたいな。
| 雪芽 | 2006/11/15 11:54 PM |
hoy.さん、こんばんは。
今朝WSを観ていたら、30歳の歳の差を越えた恋愛を描い映画の話題が。
田村正和さんと伊藤美咲さんが演じるようです。
美男美女過ぎてセンセイとツキコさんとはイメージが重なりませんね。
読んでいる時もだけれど、時間が過ぎる程、忘れ難いと思える物語です。柔らかな表現で、確実に胸の奥を突いてきます。

この本を読んだら居酒屋友達もいいなって思えますね。
| 雪芽 | 2006/11/16 12:45 AM |
はじめまして。いおなおと申します。トラバさせていただきました。川上さんの小説に流れる空気がとてもすきですね。だいたい最初の1/3くらいはなんてことないのに終わる頃には小説の人たちから離れたくなくなります。
| いおなお | 2006/11/18 3:12 PM |
はじめまして、いおなおさん!
そうですね、最初はなんてことなく淡々と進んでいるのに、気がつけばぐっと気持ちの中に入り込んでいました。
だからほんとうの知り合いのように、センセイとツキコさんのことを案じてしまうのです。
考えてみれば可笑しなことですけれどもね。
| 雪芽 | 2006/11/18 8:14 PM |

♯ コメントする









コメントをプレビューする?
ご利用のブラウザ、設定ではご利用になれません。


♯ この記事のトラックバックURL

♯ トラックバック

センセイの鞄/川上弘美
漫画にしようと思ったけど、こっちにする!! 「センセイの鞄」/川上弘美 高校で国語を教わった、さほど印象にも残っておらず卒業してから随分長く会わなかったセンセイ。 名前は松本春綱先生。 数年前にばったり飲み屋で再会してから、センセイと飲むように
| 徒然書店 | 2006/11/12 9:28 PM |
酒つまみ おつまみとは
「酒つまみ おつまみとは」 おつまみとは、酒の肴として食ベられる、手で摘める程度の簡単な食品のことをいいます。つまみ・つまみもの・酒の....
| 酒つまみ 日本酒・ワイン通販−ワイン・日本酒ランキング− | 2006/11/13 10:52 PM |
センセイの鞄 川上弘美
センセイの鞄 ■やぎっちょ書評 突然ですが、 「カバン」と「くつ」の感じを混同せずに書けますか・・・?    いいえ、かけません! 鞄と靴でしょ。 カバンの鞄というのが曲者で、カバンは革でものを包むけど、くつは革で足を包むよな・・・ん、ギブアップ
| "やぎっちょ"のベストブックde幸せ読書!! | 2006/11/13 11:22 PM |
センセイの鞄 川上弘美
「センセイ」といえば、何を思い浮かべますか? 普通は素直に、教師だよね。 あるいは、医者なんかも先生と呼ばれる。 政治家も先生と呼ぶ。 漫画家。「○○先生へのファンレターの宛先は・・・」とか。 文筆家も同じでしょうか。 また、マスメディア関係の業界人なん
| ふくらはぎの誘惑曲線 海賊版 | 2006/11/15 1:51 AM |
センセイの鞄/川上弘美 〜〜
元センセイと元教え子のツキコさんの恋。 センセイは背筋が伸びていて、言葉遣いがて
| 読書のblog | 2006/11/18 3:05 PM |
ABOUT
SELECTED ENTRIES
CATEGORIES
ARCHIVES
TRACKBACK
ありがとうございます
COMMENTS
ありがとうございます
LINKS
MOBILE
qrcode
OTHERS