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*「海」 小川洋子


小川 洋子
新潮社
¥ 1,365
(2006-10-28)
この夏一番の暑さとなった今日の札幌の最高温度は34度。もとよりクーラーなどない部屋は、ただ座っているだけでも身体から水分が蒸発していくのがわかる。(水、水、水分補給をお忘れなく!)どこか涼しい場所へ避難しようかとも考えるが、クーラーには弱い。実のところ暑い暑いとふぅふぅ言いながら、短い真夏の感触を楽しんでもいるのだ。
暑さに身を置いたまま、せめて気分だけはと涼を求め、頭の中にひんやりとした風を吹かせてくれそうな小川洋子さんの『海』を読んでみた。

キリンはどんなふうにして寝るんだろう-。『新潮』掲載の表題作ほか、「博士の愛した数式」の前後に書かれた、美しく奥行きの深い全7作品を収録する。この世界の素晴らしさを伝えてくれる短編集。
「MARC」データベースより
七つの短篇の最初は表題作でもある「海」
海だ〜、いっきにどぼんとダイブといこうか。でも待てよ、小川さんの作品はしばらくぶりである。足の指先から少しずつ身体を沈めていこう。
結婚の承諾を得るために、ふたりで恋人泉さんの実家を訪れる僕。泉さんの両親、祖母、小さな弟の四人家族に温かく出迎えられるが、初対面同士、どうもぎこちない雰囲気なのである。
人と人が出会う。相手は未知である。なにかを手繰るような繊細な作業を繰り返し、隔たる空間を埋めていく。僕や泉さんの小さな弟(でもりっぱな21歳、日本男子)がそうであったように、後に読む「缶入りドロップ」や「ひよこトラック」でも、主人公が他者と人間関係を紡いでいく様を、とても繊細に描写している。

それは海の底から長い時間を経て、ようやくたどり着いたという安堵と、更に遠くへ旅だってゆこうとする果てのなさの、両方を合わせ持っていた。

メイリンキン、小さな弟の手による幻想的な鳴鱗琴の音に耳を傾けてみたい。こんな暑い夜は特に思う。
僕視点の泉さんの唇や“口の中の暗闇に落ちていく”食事風景の描写も、やっぱり私の好きな小川さんだった。ここまでくるとすっかり海に浸っている。

身体の部位への拘り。「バタフライ和文タイブ事務所」ではそれが和文タイブの活字へと変じる。もちろん活字の文字は身体の特定部位を表わしている。作品としては『薬指の標本』の系列上にあるのではなかろうか。新人タイピストと声だけの活字管理人とのやり取りが、仲立ちとなる活字の意味するところによって、と〜ってもエロティックなのである。あらまあ、どう致しましょう(笑)

「ひよこトラック」は定年が間近に迫るホテルのドアマンと、下宿先の六歳の女の子の交流を描いた作品。ずっと独り身で身近に子供がいなかったというのが理由だけでなく、男はたぶん人に対して不器用なのだろう。それでも真剣に小さな女の子の意図を感じ取ろうとする姿が優しく映る。最後のプレゼントは最高だった。

「銀色のかぎ針」と「缶入りドロップ」はどちらも3,4ページという非常に短い短篇だけど、ふわっとした温かさで印象に残る。
「風薫るウィーンの旅六日間」と「ガイド」は旅が関係する話で、前者はちょっとしたユーモアのある仕上がりに、後者は男の子の奮闘振りが微笑ましかった。
小川さんの作品は言葉が想像させるイメージが怜悧で美しい。とくに身体のどこかを描写する時の観察者のクールな視線と、身体という全体を離れ個として描写される時の美しさにため息をつきたくなる。ただ美しいだけではなく、毒や怖さもあるのがまたよいのだ。
『海』はひんやりと心地良く、波が跳ねるようにユーモラスだったり、包み込むような優しさもあるという短編集だった。
寄せては返す。人と人との心のやり取りもそうでなくては繋がらない。

2007年8月12日読了
| 小川洋子 | 23:04 | comments(12) | trackbacks(7) | | |

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♯ コメント

こんばんは!
連日、暑い日が続きますね〜。
最高気温34度の福岡。
今日は、いつもより涼しかったと思ったのは何だか間違っているような気がします(^_^;)
夏の暑さに負けず、夏を楽しみたいですね。
こんな時に聴きたい鳴鱗琴の音色。
きっと透明感のある涼しげな音色を奏でてくれるんでしょうね〜。
風景や音色やいろんなものが豊かなイメージとともに伝わってくる素敵な短編集でした。
| エビノート | 2007/08/13 8:18 PM |
 こんばんは♪
 TBどうもありがとうございました。

 雪芽さん、札幌にお住まいだったんですね。
 なるほど。HNにも納得です^^

 札幌でも34℃だったのですか!
 うひゃー、そりゃ大阪は暑いはずですね(笑)

 ところで、雪芽さんの表現、とてもステキですね。
 「足の指先から少しずつ身体を沈めていこう」
 「はひんやりと心地良く、波が跳ねるようにユーモラスだったり、包み込むような優しさもある」
 「寄せては返す。人と人との心のやり取りもそうでなくては繋がらない」

 どれもにうんうんとうなずいてしまいました。

 小川さん、ただ美しいだけじゃないところが私も好きです。
 毒や怖さを見せながら、でもやはりどこか優しいところも。

 
| miyukichi | 2007/08/13 10:15 PM |
この短編集、いいですよね。
「ミーナの行進」のような、胸があたたかくなるような話も好きですが、
どこかに毒やとげを隠しているこういう話もいいなぁと思います。

>ひんやりと心地良く、波が跳ねるようにユーモラスだったり、包み込むような優しさもあるという短編集だった。
そうです!雪芽さんの書いてくださったとおりです。まさにこれがこの短編集のイメージです。
| june | 2007/08/13 11:56 PM |
夏はやっぱり暑いのがいいですね。汗をかくと新陳代謝も進みますし(笑)。
クーラーには比較的強いんですが、冷たいものの摂りすぎに注意な私です。
爽やかから隠微まで、こことはちょっと違う日常に連れて行ってくれる話がいっぱいでしたね。
miyukichiさんが抜き書きされてる部分、雪芽さんの感性の豊かさに驚きました。
小川さんのさらに違う一面も見せてくれる、「小川洋子対話集」も、よろしかったら読んでみてください。
| 藍色 | 2007/08/14 2:02 AM |
エピノートさん、こんばんは!
福岡なら34度でも涼しいくらいなんでしょうね。
逆に札幌は30度越えたらもうすごい暑い〜って思ってしまいます。
あっという間に秋が来て冬が来るんだろうな(気が早いっ!)
いまのうちに夏をめいっぱい楽しみたいです。
彩り豊かな物語の風景に静かな音色が聴こえてきそうで、
静かに満たされた気分です。
ほんとうに素敵な短編集でしたね。
| 雪芽 | 2007/08/14 9:22 PM |
miyukichiさん、こんばんは!
そうなんですよ、北の街札幌に住んでいます。
雪が好きなので一文字頂戴しました。
大阪も暑そうですね。夏バテしませんように。
いつも感想書くの難しい〜、と唸りながら書いているのですが、素敵と言って頂いて嬉しいです♪
毒や怖さがあるのに優しさも感じてしまう。
だから惹かれるんでしょうね。
| 雪芽 | 2007/08/14 9:23 PM |
juneさん、こんばんは!
「ミーナの行進」は未読なんですが、
優しい系のお話なんでしょうか。
図書館から借りてこなくちゃ。
ほのぼのした話はもちろん好きなのですけど、
毒や棘のある話もいいですよね。
小川さんの作品はとくにひんやりした感覚で好きです。
| 雪芽 | 2007/08/14 9:24 PM |
藍色さん、こんばんは!
冷たいものの取り過ぎは要注意ですよね。
お腹は大事にしなくては。
どこにでもありそうな出来事を書いているようで、
少しずれた日常ですね。
感性ですか、そんなふうに言って頂けるなんて嬉しいです。
「小川洋子対話集」ですね。お薦めありがとうございます。
>さらに違う一面
気になります。どんな小川さんに会えるのか楽しみ!
| 雪芽 | 2007/08/14 9:25 PM |
こんばんは、雪芽さん。
涼を求めて、新潟に行ってきましたけど、やっぱり暑かった。
この作品・短篇集は、小川さんのいろいろな面を見せてくれています。
小説、真面目さだけでも、ユーモアもあり、エロチックな面も、この本には全部詰まっていて贅沢な作品集かもしれません。
小川さんの文章はいいなーと感じさせる本でした。
| モンガ | 2007/08/17 10:56 PM |
モンガさん、こんばんは。
お返事遅くなりました。
新潟に避暑でしたか。
北海道でさえ暑いですからね、どこへ行けば涼が得られるのでしょう。
やはりいっきに南極とか!?
実は自分が行きたい(笑)

小川さんの文章はいいですよね。
同じ小川さんの短篇なのに、プリズムみたいにいろんな光が反射して、楽しく読みました。
ほんと贅沢な短篇ですね。
| 雪芽 | 2007/08/21 11:25 PM |
雪芽さん、こんばんは(^^)。
不思議な浮遊感のある物語たちを堪能しました。
「缶入りドロップ」の運転手の優しさが、とても染みました。彼は、子供たちにとっては唯のバスのオジサンだけれど、それでも子供たちのために魔法(トリック)を使うのですから。
小川さんの物語は、優しくて暖かくて、そして微かにうら淋しいですね。
こういう雰囲気が大好きです。
| 水無月・R | 2008/10/23 11:02 PM |
水無月・Rさん、こんばんは。
浮遊感、まさしくそんな感じの作品たちです。
「缶入りドロップ」に含まれる優しさ好きです。
缶入りドロップって、最初はいろんな味のドロップが詰まっていて嬉しいんだけど、好きなのばかり選んで、最後のほうでは残りものばかり。そのくせ数少ないドロップが急に大事になって、缶を振った時の音が寂しく響くんですよ。
小川さんの作品は多く読んでいないけど、浮かび上がるイメージの美しさには、ため息が出るほどです。
| 雪芽 | 2008/11/08 9:46 PM |

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