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*「失われた町」 三崎亜紀

三崎 亜記
集英社
¥ 1,680
(2006-11)

道行く人の姿が点在し、ありふれた生活の営みで、穏やかに日々過ぎていく町の風景。のどかと見える表紙から受けた印象とは違った、思いもかけない展開が待っていた。
まずは“プロローグ、そしてエピローグ”
物語は冒頭から緊迫した場面で始まる。30年に一度町が「消滅」する、まさにいまその時を向えようとしていたのだ。「消滅」に立ち向かおうとする人々の姿がそこにあった。
寄り集まった糸をいったんほぐすように、様々な形で「消滅」に係ることになった人々の人生を、7つのエピソードで描いていく。

30年に一度起こる町の「消滅」。忽然と「失われる」住民たち。喪失を抱えて「日常」を生きる残された人々の悲しみ、そして願いとは。大切な誰かを失った者。帰るべき場所を失った者。「消滅」によって人生を狂わされた人々が、運命に導かれるように「失われた町」月ケ瀬に集う。消滅を食い止めることはできるのか?悲しみを乗り越えることはできるのか?時を超えた人と人のつながりを描く、最新長編900枚。
「BOOK」データベースより
900枚という長編だということもあり、読むには時間がかかりそう、図書館の貸出期限も迫っている、読まずに返却してしまおうかとも考えた。そのまま返さずによかった。読めてよかった!嬉しくなるほど私好みの話ではないか。

設定はSFっぽい。
とはいえ人の名前、地名、交通機関も現代と変わらないし、中学校もあるから学校制度もいまと同じかと思える。現在と比較して特別未来という感じでもない。
一番の違いは町の「消滅」とそれに付随する事柄が、一般社会に「穢れ」として強く意識され、禁忌の対象となっていること。古代、中世から続く穢れの思想が物語に深く根を張っているのを考えると、古(いにしえ)の血が作品に投じられているようで、SFっぽい空間設定とのギャップがかえって面白く感じられた。
居留地という場所の存在も魅力的だ。まったく異なる文化を持つ人々が住み、其処は異文化同士が交錯する地でもあるというエキゾチックな香り。陽族と陰族なんてこれだけで別の話が出来るんじゃなかろうか。
分離した「本体」と「別体」、「消滅耐性」、ハンドルマスターなどなど捉え辛いかなと思える部分はあるが、それは物語の流れの中でなんとはなしに理解されていくので気にならなかった。こういうのは突き詰めなくてもなんとはなし程度でいいのではないだろうか。
古奏器が奏でる音が切なく物悲しく響き、登場人物達の心情を幻想的に彩る。さらには音、音楽が「消滅」にも絡んでくるのだ。
なんというか盛りだくさんである。

「消滅」に係る、係らざる負えなかった登場人物達に目を向けてみる。
人の死と違って、失われた人々を悲しんではいけないことになっている。その想いは町に捕らわれてしまうから。ひっそりと、でも消すことの出来ない悲しみ。家族を失った者として、大切な人を失った者として、「残った」者として、「消滅」から生き残った者として、悲しみをどう越えていくのか。「消滅」に係りのある相手をどう支え、自分も生きていくのか。
悲しみも苦悩もある。決して消えることはないのかもしれない。それでも揺るぎなく「消滅」に向き合っていこうとする彼らの視線は、未来を見ている。想いを繋いでいくことで、希望は色褪せない。

不思議な色合いの物語だった。静謐な佇まい。豊かな彩り。静かに水を湛える物語の水面は、古奏器の音に小さく漣を起こす。しかし、いつしか陽の光を受けて明るく未来を映し出すのだ。
読み終わってじーんと響いてくるものがあった。
お茶のシーンが多々あるのもよいなぁ。供された数々のお茶が凝っている。お茶にも思い出が残っていたりして、音だけじゃなく味覚も記憶に繋がっていくものなのだよね。

三崎さんの本は『となり町戦争』の文庫が積読本になっている。こっちはどうなのかなぁ、面白いのかな。

2007年9月22日読了
| 三崎亜紀 | 18:55 | comments(14) | trackbacks(8) | | |

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♯ コメント

雪芽さん、こんばんは。
ちょっと前に読んだのですが、現実世界に似て非なる設定とか難しかったです。
設定だけで別冊が出来そうですよね。実を言うと、そんな別の物語があったら読みたいな、なんて思っています。
どこかからそこはかとなく聞こえる、澄んだ響きの音が美しい物語を支えていたように感じました。
| 水無月・R | 2007/09/23 11:37 PM |
雪芽さん おはようございます
不思議なテイストでしたね。きっとこのテイストがこの作家の持ち味だと思います。この持ち味を本格的に開眼させるのかどうかは、次作にかかっているような気もします 笑
| yori | 2007/09/24 8:34 AM |
水無月・Rさん、こんばんは!
完全に違う世界という設定のほうが、わかりやすいかもしれませんね。
なまじ似ているからややこしくなる。
別の物語、いいですね〜。ちょっと読んでみたい。
古奏器の調べのせいでしょうかね、消滅という殺伐とした出来事があるのに、物語が叙情的で美しいなって感じましたよ。
| 雪芽 | 2007/09/24 6:32 PM |
yoriさん、こんばんは!
不思議なテイストが好みなのでどんぴしゃでした。
だからといって三崎さんの本が好みかは、なにしろサンプルが1冊なのでどうだか。
作者への評価未定の方が多いようですね。
そういう意味でも次回作は楽しみです。
三崎さんプレッシャー重〜い。
| 雪芽 | 2007/09/24 6:50 PM |
三崎さんの描く世界はとても現実離れしているのに、それでいて生々しい感情を起こさせる作品だと思います。
失われていく大切な人々や記憶、理不尽な力によってどうすることも出来ないけれど、それでも足掻かずにはいられない切ない気持ちが伝わってきました。
| らぶほん | 2007/09/26 2:22 PM |
用いられた設定や言葉から湧き上がってくるイメージが、私の好みとピッタリの作品でした♪
三崎さんの作品の中では、この作品が一番好きです。
この設定で、他にもいろんな作品が作れそうなので、どこかで読めたら良いですね〜。
| エビノート | 2007/09/26 9:45 PM |
雪芽さん、こんばんわ。
ほんと不思議な色合いの物語でした。
この盛りだくさんぶりには驚いたし
ついていけないところもあったんですが、
それでもすごい!と思いました。
こういうどっぷり世界に浸ることのできる本、好きです。
| | 2007/09/27 8:50 PM |
この盛り沢山な彩りは私もかなり気に入って、三崎さんに対する印象も変わってしまいました。今では結構お気に入りです。
| たまねぎ | 2007/09/29 12:26 AM |
らぶほんさん、こんばんは。
少しずれた位置にあるもうひとつの現実とでもいうんでしょうか、喚起されるイメージは幻想的で、美しい言葉の響きに魅了されました。
この物語のリアルさは設定がどうあろうと、人の心に湧き起こる悲しみなどの感情が、自分達と変わりなく重なるからではないかしらと思います。
切ない気持ち、ひしひしと感じましたね。
| 雪芽 | 2007/09/30 8:45 PM |
エピノートさん、こんばんは。
読んでいる時の感覚、これと似た感覚をいぜんどこかでと考えて浮んだのが、宇月原さんの『安徳天皇漂海記』でした。
美しい文章が紡ぎ出す叙情的で鮮やかな物語。哀惜の色があるところがもろ好みと合うんですよ。
居留地の話なんか怪しくて面白そうだし、関連する他の話も読んでみたいものです〜
| 雪芽 | 2007/09/30 8:47 PM |
juneさん、こんばんは。
消化不良になるくらい盛りだくさんな内容ですね。エピソードのてんこ盛り、これがとても楽しいし、なによりも凄いな!ってもうそれだけですね。
こんなにいっぱい詰め込んでも収まりがついている。
浸れる話はいいですよね♪私もどっぷり浸りました。
| 雪芽 | 2007/09/30 8:49 PM |
たまねぎさん、こんばんは。
印象が変わったということは、他の作品はだいぶ違った雰囲気なのでしょうか。まだこれ1冊のみなので、違いが楽しみでもあり怖くもあります(笑)
| 雪芽 | 2007/09/30 8:50 PM |
こんにちは〜だいぶ前にTBだけさせていただいたのですが、そこで力尽きてしまいました。コメントのお返事も本当に遅くなってしまってすみませんでした〜(汗)

この物語はとても素敵でしたよね〜♪私はお茶がとても好きなのでお茶を淹れるシーンも興味深く読めましたし、居留地とかエキゾチックな雰囲気も感じられてとても楽しめました。ちょこっとしか出てこなかった物やエピソードを元にして番外編なんかが読んでみたいなぁとか思っちゃいます。(^^ゞ

私もこの本が初三崎さんだったのですが、他も期待して読んでしまいそうな気が・・・近いうちに『となり町戦争』を読もうかと思ってます♪
| 板栗香 | 2007/10/22 3:28 PM |
板栗香さん、こんばんは。
コメントありがとうございます。
なにか手紙のお返事が返ってきたような、
この間合いが懐かしく思えました。

日常生活や習慣を想像させる描写があると、つい興味惹かれてしまいます。
お茶シーンはいいですよね♪
私もお茶好きなので、おりにつけ出てくるお茶タイムは見逃せません。

『となり町戦争』は文庫を購入済なんですが、最初に好みの本に出会ってしまうと、期待が膨らみ過ぎてちょっと読むのがコワイです(笑)
| 雪芽 | 2007/10/24 10:46 PM |

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