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*「仏果を得ず」 三浦しをん

三浦 しをん
双葉社
¥ 1,575
(2007-11)

本の帯にある「“好き”が過ぎるとバカになる。でも、そんなバカになってみたい。」という言葉に、大きく頷いた。好きなことに情熱を傾けている人には共感を覚える。親近感を抱く。たとえそれが自分の興味の範疇外であっても、突き動かされる情熱というものはみな一緒だと思うのだ。なぜそれほどまでにその人の心を捉えて離さないのか。他でもない“それ”でなければならなかったのかと、縁の不思議に興味惹かれる。

文楽に出会い、精進の道をいく若き健太夫の成長を描いたこの作品も、健太夫に限らず、文楽に強き思いを傾け、その道を生きて生き抜く同輩、先人の姿が熱く胸を揺さぶる。
『風が強く吹いている』然り、しをんさんは人の内に渦巻き湧き上がる静かで熱い情熱を描くのが本当に上手い。
ある時、健太夫は師匠の銀太夫から三味線の兎一兄さんと組むようにと言われる。ちょっと取っ付き難い風のある兎一郎の訳あり気な過去は謎のまま、健は不承不承新しい演目の稽古に入る。相方とはなったが力量では数段上の兎一郎の内心が見えてこない不安、与えられた役を掴み切れないことへのもどかしさと焦り。呻吟しつつもひとつひとつ乗り越えていくたびに、健は太夫として成長し、より一層文楽に魅せられていくのだ。
険しい道を身を削り先へ進んでいく。奥深く分け入るごとにさらに道は困難になっていくのに、ますます文楽の虜になっていくのだ。健の太夫としての成長を描く過程で、彼を魅了してやまない文楽の魅力もふんだんに語られている。

作中で演じられる舞台の場面も面白かった。人形の息遣い、三味線の音色、太夫の語りが一体となって伝わってくる。とくに最後の仮名手本忠臣蔵は、息苦しいほどの緊迫感が文中を満たしていた。ぐいぐいと迫ってくる。健太夫が語る勘平の心情が巻き起こす渦に飲み込まれていく。これがとっても心地良かった。場が終わり、呪縛が解けたように緊迫した空気から解放される時の、なんとも言えない満足感は最高である。
ずっと以前から文楽の舞台を一度観に行きたいと思っていた。毎年公演のポスターを目にするたびに行きたいと思うが、いつも機会を逃している。今年こそは生の舞台を味わってみたいものだ。

健を取り巻く登場人物も多彩で、それぞれにいい味を醸しだしている。
銀師匠の天衣無縫さ、温厚な相三味線の亀冶、プリン好きの兎一郎、女性陣もなかなかのもので、小学生のミラちゃんでさえ一筋縄ではいかない。
健の過去の話もえ〜っと驚いた。持て余していた情熱の行き場が文楽だったというのも、ある意味凄い出会いだ。どうして他のものじゃなかったんだろう、ってこれはいつも思うこと。この不思議は解けない謎だ。
人間味溢れる人達に囲まれて、義太夫一番の健はこれからも、生きて生きて生き抜いて、芸道を歩んでいくんだろうな。

新年早々熱くて面白い本が読めてよかった!

2008年1月2日読了
| 三浦しをん | 18:53 | comments(16) | trackbacks(11) | | |

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♯ コメント

明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。

読む前は身構えた作品でしたが、杞憂に終わりました。
すごく良かったですよね〜。
人物たちも個性的で魅力がありました。
特にミラちゃんが可愛かったです。
それに引き換え母親は…、ねぇ。
| しんちゃん | 2008/01/06 7:36 PM |
しんちゃん、あけましておめでとうございます。
こちらこそ今年もどうぞよろしくお願いします。

文楽というと難しくてお堅いイメージでしたが、全然違っていましたね。
いや〜、面白かったです。
ミラちゃん可愛くて、小さくてもちゃんと女でしたた。
真智さんは掴み難い性格だったかもしれませんね。
健も翻弄され気味。
いや、母娘どちらにも翻弄されてましたか(笑)
| 雪芽 | 2008/01/07 7:04 PM |
こんばんは!
文楽の魅力が伝わってくる楽しい作品でした〜。
各作品に健が必死に向き合って、それを自分のものにしようと努力する姿、読み応えがありました。
そして、舞台の描写の迫力に圧倒されました!
生の舞台を体験してみたい!
そう思わされました〜
| エビノート | 2008/01/07 9:49 PM |
雪芽さん、こんばんは。
「仮名手本忠臣蔵」は読んでいるだけで緊張感が伝わりました。
健が考えるという設定で、物語のあらすじやどうしてそういう風に行動したのかというしをんさんなりの解説も読めたし
ますます文楽に興味を持ちました。
| なな | 2008/01/07 10:43 PM |
雪芽さん、あけましておめでとうございます。
今年もどうぞよろしくお願いします。

文楽に情熱を注ぐ健と周囲の人間模様、楽しかったですね。
大夫の世界に身を置く健が一人前に成長していく姿に好感が持てました。
しをんさんならではの熱い文楽の世界、堪能しました。
| 藍色 | 2008/01/08 4:38 PM |
雪芽さん明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
私はこの本に当てられて、今年はNHKの新春桧舞台を見てしまいました。お目当てはもちろん義太夫です。
でも悔しいかな、本を読むときほど夢中にはなれませんでした。やはり勉強が必要なのかも。ほろ酔いだったのも反省ですが(汗)
| たまねぎ | 2008/01/09 12:10 AM |
エピノートさん、こんばんは。
馴染みのない文楽の演目も、作品と向き合う健の姿を追ううちに自然に伝わってきて、いつしか自分まで魅了されてしまいました。
舞台の描写は迫力ありましたね。
やはり生で舞台を体験したいって私も思いましたよ〜
| 雪芽 | 2008/01/09 12:24 AM |
ななさん、こんばんは。
「仮名手本忠臣蔵」は引き込まれました。
迫力あり過ぎです、しをんさん。
健を通して語るしをんさんの文楽への情熱の賜か、
いまの時代では理解し辛い部分もああそうなのかと、わかったような(つもり)気がします。
縁遠かった文楽ですがいまはすごく身近に感じます。
| 雪芽 | 2008/01/09 12:27 AM |
藍色さん、あけましておめでとうございます。
今年もどうぞよろしくお願いします。
人間の愛憎や人情を演じる演目と、健を取り囲む出来事、心情が微妙に重なり合って、先を読み急いでしまいたくなりました。
義太夫でも現実の世界でもあちこち壁にぶつかってましたね。
成長モノはいいなと思いました。つい応援してしまいます。
文楽がこんなに熱い物語になるとは思いませんでした。
ほんとうに面白かったです。
| 雪芽 | 2008/01/09 12:29 AM |
たまねぎさん、あけましておめでとうございます。
今年もどうぞよろしくお願いします。
そうですか、TVでの放送があったのですね。
惜しかった、もう少し早く読んでいれば。
やはり生の舞台を気持ちを集中させて観るのがいいのでしょうか。
お正月ですからほろ酔いも致し方ありませんよね。
| 雪芽 | 2008/01/09 12:31 AM |
こんばんは。
本当文楽が全くわからない人でも楽しんで読める作品でしたね。
三浦しをんさんが文楽が本当に好きなのがとても良く伝わってきました。
この本、ちょっと読むのに時間がかかってしまったのですが、読み終わった後は文楽を一度観に行きたいな、と思えるそんな作品でした。
| masako | 2008/04/08 10:46 PM |
masakoさん、こんばんは。
生で文楽を観てみたいなとその気にさせる、熱い勢いのある文章に圧倒されます。
登場人物達の勢いに押されっぱなし^^;
これはしをんさんの文楽愛がそのまま反映されているからでしょうね、きっと。
文楽門外漢でも全然大丈夫でしたね。
読んだ勢いのまま文楽を観に行けたら最高だろうな、って思いました。

| 雪芽 | 2008/04/10 9:40 PM |
雪芽さん はじめまして
本をしこしこぼちぼち読みのくじらです。

こちらの感想を面白く拝見。
「縁の不思議」ってこと。同感です。


健もとりまく人たちも、なかなかに面白かったです
| くじら | 2008/05/10 11:05 AM |
くじらさん、はじめまして!
コメントありがとうございます。いらして頂いて嬉しいです。
「縁の不思議」は出会いでも恋でも趣味でもどこにでもあって、結ばれたきっかけはわかっても、なぜにと思うことが多いですね。だからこそ縁なのでしょうけど。
登場人物が皆さん愉快で印象深い人たちばかりでした。
ここらへんが堅い文楽のイメージを、柔らかく受け入れ易いものにしているのかもしれません。
| 雪芽 | 2008/05/11 7:05 PM |
雪芽さん
こんな馬鹿なら、私もなりたいです 笑
夢中になる、一生懸命って、素敵ですね!!
| yori | 2009/06/13 10:36 AM |
yoriさん、こんばんは。
誰になんと言われようとかまわない。
一生を賭けてその道を歩いていく覚悟。
どこで出会うかなんですよね。
夢中になるものがあるってほんと素敵です!
それが生きる道に繋がるのならばなおのこと。
| 雪芽 | 2009/06/15 12:10 AM |

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