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*「猫を抱いて象と泳ぐ」 小川洋子

新しい年が始まったばかりの最初の月にこんな本に巡り会えるなんて!
読みながらひたひたと、読み終わってせつせつと、静謐な美しさを持った愛おしい物語が心の内でたゆとうている。静かに熱してくる感情の昂ぶりを抑えつつ、リトル・アリョーヒンの軌跡をともに歩み、彼が盤下で創り続けた棋譜の深く美しい旋律に傾聴し、グロテステクでせつなく哀しい世界の果てで涙したこの物語を思い返してみる。

伝説のチェスプレイヤー、リトル・アリョーヒンの密やかな奇跡。
触れ合うことも、語り合うことさえできないのに…

 のちにリトル・アリョーヒンと 呼ばれることになる少年は、沈黙を携えてこの世に生を受けた。出生時のエピソードは彼の寡黙な人生を暗示しているかのようだ。

大きくなり過ぎてデパートの屋上から降りられなくなったゾウのインディラ。どんどん肥大し住みかのバスから出られなくなったマスター。建物の壁にできた隙間から出られなくなったミイラ。大人になることを望まず盤下でリトル・アリョーヒンとなった少年。いずれもが限定された狭い空間に繋ぎ止めれ、密接な関係で結ばれている。
もっと違う道はなかったのだろうか、少なくともリトル・アリョーヒンにはと思うのだけど、彼の言葉にもあるが盤下だからこそチェスを指すことができるのだ。ならばそこが彼の真の居場所となる。

ある特徴を付与された唇を持つ少年はバスに住むマスターと出会い、言葉で語ることよりも棋譜で語るチェスに夢中になっていく。思えばこの物語で少年が一番幸福だった時代かもしれない。
バスの中から始まった少年のチェス人生は表舞台に出ることなく、海上の喧騒とは隔絶した水面下で密やかにその存在は広まる。「盤上の詩人」と呼ばれた実在のチェスチャンピオン、アレクサンドル・アリョーヒンに対して、リトル・アリョーヒンは「盤下の詩人」と呼ばれるようになるのだ。
彼が常々心がけるのは美しい棋譜を残すことだった。狭い盤下に潜り込み指す姿とは対照的に、深く広く自由に飛翔する対局の描写が素晴らしい。

リトル・アリョーヒンに生きる場所をみつけてくれた老婆令嬢との対局の数々も心に残る。チェスをよく知らない祖母までが感涙する場面は、祖母の心情に涙した。それにしても老いとはなんて残酷なんだろう。老婆令嬢が愛したチェス。この物語にはそこかしこに哀しみが潜んでいる。

言葉は交わさない。触れることもできない。長い日々を費やして対局するチェスの棋譜だけがふたりを繋ぐ。ミイラと交わしたチェスの一手一手、その向こう側に互いを思う気持ちが透けてみえる。
平穏な日々と突然訪れる哀しみ。リトル・アリョーヒンを何度か襲うできごとの中でも、ラストのできごとはもうどうしようもなく哀しかった。
すれ違うのをただ黙って見送ることしかできない……。これもほんとうに哀しくてせつなかった。

美しいけれど哀しい。哀しくあっても美しい。大切な1冊。

2009年1月24日読了

今日はあと2冊感想を書こうと思っていたのだけど力尽きた。

| 小川洋子 | 17:20 | comments(4) | trackbacks(5) | | |

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♯ コメント

こんばんは。
静謐なひとときを堪能できましたね。
リトル・アリョーヒンと一緒に、素敵なチェスの海に身をゆだねていました。
そういえば、祖母や老婆令嬢。
老いの残酷さや哀しさも感じちゃいました。
| 藍色 | 2009/02/02 2:19 AM |
藍色さん、こんばんは。
こんなに静かなのに、こんなに響いてくる。
8×8のチェスの海をリトル・アリョーヒンと泳ぐ心地良さが甦ります。
一方忘れていくことは幸せであるのでしょうけどね。
せつないものがありました。
| 雪芽 | 2009/02/03 12:56 AM |
雪芽さん、こんばんは(^^)。
チェスの海に沈む、美しい物語でしたね。
相手を倒すことではなく、お互いに響き合う美しい軌跡を描くことを旨としたゲーム、素晴らしかったです。
猫、象、鳩など動物のイメージや、大きくなることへの恐怖を示すエピソードなど、とてもファンタジックでした。
小川さんの、こういう世界って、素敵ですね。
| 水無月・R | 2009/02/12 10:34 PM |
水無月・Rさん、こんばんは。
白黒チェックのマス目に美しい棋譜が展開されていく様が素晴らしくて、イメージの喚起力が凄いです。
勝負ごと以上の空間なんですよね。
動物、成長を拒む気持ち、いろんな暗喩含んでいました。
ファンタジックな小川ワールドでしたね。
ため息出るほど素敵でした。
| 雪芽 | 2009/02/13 9:39 PM |

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猫を抱いて像と泳ぐ 小川洋子
伝説のチェスプレーヤー、リトル・アリョーヒンの密やかな奇跡。 触れ合うことも、語り合うことさえできないのに… 大切な人にそっと囁きか...
| 粋な提案 | 2009/02/02 2:20 AM |
『猫を抱いて象と泳ぐ』/小川洋子 ◎
チェス盤の下にもぐりこんで、相手の駒を置く音で位置を判断し、自分の駒を進める、独自のスタイルを貫いた、リトル・アリョーヒン。 彼の数奇な人生が、美しいチェスの棋譜にも似た、優しく輝かしいファンタジーで描かれている。 小川洋子さんは、こういったファンタ
| 蒼のほとりで書に溺れ。 | 2009/02/12 10:22 PM |
猫を抱いて象と泳ぐ<小川洋子>−(本:2009年読了)−
猫を抱いて象と泳ぐクチコミを見る # 出版社: 文藝春秋 (2009/1/9) # ISBN-10: 4163277501 評価:85点 小川洋子の作品はどれもこれも「静謐」という言葉が当てはまるのだが、今回の作品はとりわけ静かで美しい。 それもそのはず、主人公の少年は、唇が閉じた
| デコ親父はいつも減量中 | 2009/10/17 12:55 AM |
小川洋子『猫を抱いて象と泳ぐ』
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「猫を抱いて象と泳ぐ」は、幻のチェスプレーヤーが描かれた作品。 本屋大賞2010年の第5位。小川洋子の作品を初めて読む。    猫を抱いて象と泳ぐ (文春文庫) (文庫) / 小川洋子/著価格:620円(税込、送料別) 後に「リトル・アリョーヒン」と呼ばれることにな
| りゅうちゃん別館 | 2011/07/06 10:49 AM |
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