本や映画の感想、日々の雑感などを徒然に書いております
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*「薬指の標本」 小川洋子

楽譜に書かれた音、愛鳥の骨、火傷の傷跡…。人々が思い出の品々を持ち込む「標本室」で働いているわたしは、ある日標本技術士に素敵な靴をプレゼントされた。「毎日その靴をはいてほしい。とにかくずっとだ。いいね」靴はあまりにも足にぴったりで、そしてわたしは…。奇妙な、そしてあまりにもひそやかなふたりの愛。恋愛の痛みと恍惚を透明感漂う文章で描いた珠玉の二篇。

薬指の標本
「標本室」で働く主人公のわたしと標本技師弟子丸氏、ふたりはグラスとグラスが触れ合うひそやかさで愛を重ねる。
硬質で高音な響きを奏でるのが、ふたりの愛のカタチだ。
すべは標本室に並ぶ標本のように整然としている。
標本室を満たしているのは整然とした秩序。
だから“わたし”は、誤って落とし散らばした活字盤の活字を、最後のひとつまでも元どおりにすることを、弟子丸氏に命じられたのだろうか。

欠けた左手薬指の先。
“わたし”は、以前働いていたサイダー工場で機械に挟まれ、薬指の先を失っていた。

わたしの残像の中でその肉片は、桜貝に似た形をしていて、よく熟した果実のように柔らかい。そして冷たいサイダーの中をスローモーションで落ちてゆき、泡と一緒にいつまでも底で揺らめいている。

脳裏を浮遊する美しいイメージ。
イメージの表層を剥ぐと、そこには削り取られ血を滲ませる肉片の片割れ、身体の一部を失ったわたしという存在があるのだが、現実的な生々しさとはかけ離れたところに“わたし”の意識はある。

靴と足の境目が、ほとんど消えかかっているじゃないか。靴が足を侵し始めてる証拠だよ

靴が足を侵す。
と、どうなるのだろう?足が存在しなくなる?
昔、友人の付き合いで見に行った日本の幽霊画展を思い出す。
大概日本の幽霊の絵は足が描かれない。
幽霊は肉体的に現世との接点を失った存在であることを、地を踏む足を描かないことで表現する意図もあったのだろうか。
実際のところは知らない。
靴が足を侵すという言葉は、“わたし”自身が失われていくことを暗示しているようにも思える。

“わたし”が標本となった薬指について思い巡らすところがある。
桜貝の肉片に対するのと同様に、存在するのは薬指への意識だけなのだ。
残されたものより、失われたものへの意識がより鮮明で、意味深く浮かび上がってくる。主である身体など存在しないほどに。
最後に“わたし”が取った行動、その先に待っているのはなにか。

六角形の小部屋
題名のとおり、人がひとり入れるだけの六角形の小部屋、そこに何を求めて人が集まるのかといえば、標本室と同じく、癒されること、心を軽くすることだった。

この物語の主人公が背中の痛みを治すため、牽引治療を受ける場面がある。滑車を使って背骨を引っ張るわけだが、その描写はこの作者ならではなのだろうか。
主人公は滑車が際限なく自分の背骨を引っ張り続けることを想像する。
とうとう骨が全部ばらばらになってしまう。一個一個の骨は、ちぎれた真珠のネックレスのように床に散らばってゆく。

桜貝の肉片以上に恐ろしく深刻で苦痛に満ちた描写の中には、うっとりとその過程を夢想する恍惚感が漂う。
美しく紡がれる言葉の下にひっそりとグロテスクなものが潜んでいる。内なるグロテスクを養分とし、言の葉の枝葉を茂らせるのだ。美しく、それは戦慄するほどに美しく。

作者の身体の部分への拘りが読んでいて面白かった。
| 小川洋子 | 01:00 | comments(9) | trackbacks(2) | | |

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♯ コメント

芥川賞受賞作「妊娠カレンダー」
この頃、彼女は我が家のご近所でした。
主婦をしながら、小説を書いて・・・
すごい人が近くにいるなぁ〜って感心してました。

そう思っただけで、作品は読んでないんですけどね(^^;

雪芽さんの文章は本当に読みたくさせる文章です。
今、読みたい本のリストを作って本屋へ行ったら探してます。
| banana | 2005/10/14 9:46 PM |
こんばんは〜、bananaさん!
ほう、ご近所さんだったのですか、それは驚きです。
小川洋子さんが「妊娠カレンダー」で芥川賞を受賞されたことは知っていましたけど、この方の作品を読むのは、「薬指の標本」が初めてでした。
ほんとはね、「博士の愛した数式」がすごく読みたかったのですよ。
それなのに購買ベクトルが真っ直ぐ読みたい本に向わないところが(謎)

え〜、そうですか、読みたくなりますか(笑)
それはとっても嬉しい言葉です、ありがとう。

いま読みたい本がたくさんあって、迷ってしまう。
bananaさんも上下巻本読み終わったんですね。
面白かったかしら、と気になります。
| 雪芽 | 2005/10/14 10:56 PM |
こんばんわ〜
「博士の愛した数式」に行かないところ、
なんかわかります(笑)
コメントのお返事にコメントしてどうする?
って感じですけど(^^;)
自分の場合、は文庫化待ちで、待てずに
ついこのあいだ、買ってしまいました。
ちょうど行った古本屋さんにあったんです。
誘惑に負けて我が家の本棚に(笑)。
でも、まだ未読。
なぜなら、そこで発見した「蝉しぐれ」を
現在、読んでるんです〜(ふふっ♪)
| littleapple | 2005/10/15 2:28 AM |
コメントのお返事にコメント、全然構いませんよ〜(笑)
littleappleさん、いらっしゃいませ!

ああっ、ずるい、買っちゃたんですね。(とんだ言いがかりをする奴です)
いいな〜(これが本音)
今日も本屋で「博士の愛した数式」に頭を悩ませていました。
買うべきか、買わざるべきか。
私も文庫主義、というか収納の関係で極力単行本は買わずにおきたいのですよ。
本を手に取り、ページをパラパラさせ、嬉々として読んでいる自分の姿を想像し…
ここまで思う本なら買えばよいものを、今日も買わずに帰宅したのでした。ある意味楽しんでいるのか。
でも、手ぶらで帰ってくるはずもなく、文庫本を4冊みっけて購入してきました。

書棚巡りの途中、荒地出版のサリンジャー選集が新装版になっているのを発見。しばらく絶版に近い状態でしたからね。
村上春樹訳のほうの「ライ麦畑でつかまえて」も読んでみたいし、本屋へ行くと欲望の塊になって帰ってきます。
困ったもんだわ〜(爆)
| 雪芽 | 2005/10/16 7:42 PM |
はるさん、TBありがとうございます!
いまブログにお邪魔してコメント入れされて頂きました。
また遊びにいらして下さいね。
| 雪芽 | 2006/01/02 3:49 PM |
こんばんは。
こちらこそ、コメントが遅れてしまい、申し訳ありませんでした。

雪芽さんのレビューが、素晴らしくて感動です。
私は「感想文」もままならないので…。
他のレビューもゆっくり拝見させていただきます。
よろしくお願いします。
| はる@ひめ | 2006/01/03 1:03 AM |
はる@ひめさん、こんばんは。
コメントありがとうございます。

書評とは恥ずかしくて自分では言えないので、
知り合いには本の感想などのブログをやっていると
話しています。
評論とか書いている方には、コワクて見せられません^^;
厳しく突っ込まれそうです。

こちらからもまたお邪魔させて頂きたいと思いますので、
どうぞよろしくお願いします。

| 雪芽 | 2006/01/08 5:43 PM |
雪芽さん、ありがとうございました(^^)。
なんだか「標本」という「時を留めるもの」というのでしょうか、そういうものにしたいと思うものが自分にあるのだろうか・・・という不安が(笑)。

「薬指の標本」も「六角形の小部屋」も、現実と少しだけずれている感じが、美しかったですね。
| 水無月・R | 2009/06/25 10:13 PM |
水無月・Rさん、こんばんは。
「標本」といって思い浮かぶのは蝶の標本なんですが、もうそこから時は進まない、見ていると不思議な気持ちになります。
自分にとって「時を留めるもの」(この表現いいですね!)はと…、老いること朽ちることであっても変化し流れていくほうがいいなという気がしますが。
でも、無意識的にあったりして〜、永遠に留めたいもの、汗

小川さんの美しい描写が素敵でした!
| 雪芽 | 2009/06/26 9:42 PM |

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小川洋子「薬指の標本」
はじめまして。 小川洋子さんの「薬指の標本」を読んだので、 TBさせていただきました。
| PEACH PEACH DIARY | 2005/12/25 9:47 PM |
『薬指の標本』/小川洋子 ○
痛い痛い痛いぃ〜・・・。 すみません、多分小川洋子さんは、痛くない描写をしたと思うんですが、水無月・Rは小心者でして、痛いのは苦手なのですよ・・・。主人公・私の薬指の先端を失ったそのいきさつのシーンが、現実味が薄かったのに、なんか自分の身に置き換えて
| 蒼のほとりで書に溺れ。 | 2009/06/25 9:58 PM |
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