本や映画の感想、日々の雑感などを徒然に書いております
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*「冷めない紅茶」

『冷めない紅茶』は第103回芥川賞候補となった表題作の「冷めない紅茶」と「ダイヴィング・プール」の2作品を収録。小川洋子は翌年『妊娠カレンダー』で第104回芥川賞を受賞している。

冷めない紅茶
その夜、主人公のわたしは初めて死というものについて考える。
それまでも彼女の周りに死がなかったわけではない。飼っていた金魚の死や、おじいさんが死があった。
おじいさんが死んだ時、主人公は消毒用のアルコールを買いに薬局へおつかいに行かされる。
そこで目にした人体解剖図と脳の立体模型、このふたつに対する主人公の嫌悪感は、逆に詳細な観察と思考へと繋がっていく。
無機質なふたつのモノが幼かったわたしの頭の中で、赤く熟して溶けかけた果肉のようであったり、半透明でぶよぶよしたなめくじのように感じたり、グロテスクに妖しく変容していくのだが、かえってそのことが現実感から遠く乖離させる。
小川洋子の身体への拘りとでもいうのだろうか、怜悧な観察者としての視点によって対象となった身体の部位は解剖され、有機的な肉体としての存在から無機質なモノへと形を変えていくようだ。
その文章表現には形を変えたモノへの醒めた陶酔感に似たものを感じる。醒めた、というのは逆説的だが、小川洋子の文章がどんな時も静謐さを失わないからだ。

主人公のわたしが死について考えたのは、金魚の死やおじいさんの死とは違った、はっきりした輪郭を持った死があったからだった。
十年以上も会っていない中学の頃の同級生の死。
お通夜の帰りにわたしは、やはり同級生だったK君に声をかけられる。
言葉を交わすふたりの周りにあるのは、夜の闇と静けさ。
主人公はカトウという男性と同棲しいるが、いつの頃からか互いの関係性に不満を抱いている。カトウの言葉や態度に含まれる、常套化したそこになんの意志もみえない空虚さ、見せ掛けの表情への不快感が大きくなっていた。
そんな時に出会ったのがK君だった。

どこか懐かしさのあるK君宅に招待された主人公は、K君と同じ中学の図書室で司書をしていた女性の間に流れる清水ような清浄さに惹かれ、度々K君宅を訪れるようになる。
ふたりの間に交わされる言葉も、視線さえも、意味のないものはなく、はっきりと意識された恋の始まりがK君と彼女にはあるのだ。

くっきりとした輪郭を失い、夜の闇にも、昼の光にも漂い溶け出しているようなK君と彼女の存在。
死とは明確な境界線の向こうにあるものなのだろうか。
こうして呼吸して生きていると感じる、日常では考えることもしないほどに忘れられた生であるが、真の闇に包まれた時身体の存在を見失う曖昧さに似て、いまこの時も死は、一瞬一瞬生の中に漂い出してきているのではないか。
死というものを考えた時、生も同時に浮かび上がってくる。両者は互いの中に漂い、ひとつであるかのようだ。

K君が淹れてくれた紅茶は時が過ぎてもなぜ冷めないのだろうか。
途中のもしやという疑念が最後にきて確信に変わり、ふいに怖さが心に漂い出してくるのだった。

完璧な病室『薬指の標本』を読み、物語が漂わせている静謐で残酷な空気感に惹かれた。小川洋子はこれから作品を読破したいと思っている作家の一人でもある。
『冷めない紅茶』は先週図書館から借りてきて単行本で読んだが、現在は入手困難なようだ。「完璧な病室」、デビュー作「揚羽蝶が壊れる時」と、本書の2作品を加えたものが中公文庫から出ているので、「ダイヴィング・プール」の感想はそちらを読んでから書こうと思う。
映画館で予告を観て、『博士の愛した数式』が読みたいと思ったことが小川洋子を読むきっかけだったが、近々文庫化されるようだ。やっと我慢の日々から解放される、とは少し大袈裟か。

| 小川洋子 | 16:00 | comments(4) | trackbacks(1) | | |

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♯ コメント

雪芽さん、こんばんは。
「冷めない紅茶」読まれたのですね。
小川洋子さんの文章の静謐さ!!そうそう、そうですね、たしかに。
>死というものを考えた時、生も同時に浮かび上がってくる。両者は互いの中に漂い、ひとつであるかのようだ。
う〜ん、なるほど。小川さんの作品を読むときに感じる、生と死の渾然と交じり合った感じ・・っていうのは、そこから感じるのでしょうか。
熱い紅茶、冷めない紅茶・・なのに・・なんだか背中がゾクゾクしてくるような・・そんな気がしながら読んだ覚えがあります。
| 瞳 | 2005/11/24 12:30 AM |
瞳さん、こんばんは。
「冷めない紅茶」というタイトルを目にした時、
ふと瞳さんのお名前が浮んだんですよ。
HPのほうで紅茶に関する映画や本のことなど、
詳しく紹介されていたのを思い出して、
ぱっと紅茶好きの瞳さんの名前が浮んだんです。

小川洋子さん初心者としては、まだまだその描く世界が
掴みきれてませんが、その未知の部分を知っていく
楽しさを味わっているところです。
| 雪芽 | 2005/11/25 11:02 PM |
こんばんは。
初めまして、モンガです。
やぎっちょさんところからきました。
小川さんの独特の文体が好きで時々読んでいます。
ブログリストに登録しましたので、今後ともよろしくお願いします。
ずっと見て気になっていたのですが、日記の分類にある「島田理生」とあるのは、「島本理生」さんでは、余計なことですみません。

| モンガ | 2006/10/10 12:20 AM |
モンガさんはじめまして!
やぎっちょさんのところからいらしたのですね。
小川さんの文体は私も好きですよ〜
読んでいて惹かれるものを感じます。
もっと他の作品も読みたいと思いながら、
あまり読めていません。

ブログリスト登録ありがとうございます。
嬉しいです。
こちらも登録させて頂きますね。
これからもよろしくお願いします。

分類の名前の間違い、ご指摘ありがとうございます。
気づいてませんでした。お恥ずかしい><
| 雪芽 | 2006/10/11 8:48 PM |

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冷めない紅茶  小川 洋子
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