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*「博士の愛した数式」 小川洋子

博士の愛した数式
小川 洋子

「僕の記憶は80分しかもたない」

家政婦の『私』は10歳の息子と暮らすシングルマザー。彼女が組合から派遣されたのは、交通事故により記憶が80分しかもたないという『博士』が住む離れの家。
元数学者だった64歳の博士の記憶は、事故のあった1975年で途絶えている。それ以後は1分の狂いもなく、きっかり80分、蓄積されない記憶が繰り返されるだけだった。
博士は大事なことを忘れないようにメモに書いて、自分の背広に止めてあった。背広はメモでいっぱいだった。
「僕の記憶は80分しかもたない」というメモを読む度に、博士に突きつけられる現実があったろう。しかし、数学の美に寄り添い、そこに訪れる静かな至福に身を置く時の、博士の心は幸せだった。
数学を愛する博士がとりわけ愛したのは素数、と子供。
頭を撫でながら博士は10歳の息子に『√』という愛称をつけた。
博士によるとどんな数字でも嫌がらず自分の中にかくまってやる、実に寛大な記号が√なのだ。
博士といつも新しい家政婦である主人公の二人に息子ルートが加わり、繊細で優しく響く擬似家族的な三人の物語が動き出す。

学校を卒業して一番嬉しかったのは、数学の授業から解放されたことだった。数字は生きる上で避けて通れないとしても、数学とは無縁でありたい。行く手に数学あれば回り道だって厭わない、そんな気持ちでいた。
それなのに小説の中で大嫌いな数学に出会うことになるとは、しかも読み終わって数学の面白さに気づくことになるとは予想外の展開だ。私も主人公同様、博士が語る数学の美しさに魅了されたのかもしれない。
人の温もりさえ想像させる友愛数、双子素数、博士の好きな阪神の江夏の背番号は絶対数28、エレガントな三角数、素数を探して時に砂漠をさまよい、その果てにオアシスを見つける喜びを味わってみたいとさえ思う自分に驚く。
博士の外見描写は決して魅力的ではないのに、読んでいるうちに数学を語り、一番星を見つけるのや、逆さ言葉が得意な博士が魅力的な人物に思えてくるのだ。
学生の頃にこんな数学の先生に出会いたかったものだ。

『私』、『博士』、『√』、とりわけ博士とルートの間に流れる親密さと信頼の描写には温かな感情が湧く。
多少のアクシデントに見舞われながらも、幸福で濃密な時間となった最後の三人の夕食の場面が忘れられない。
たぶんそれは脆く繊細な均衡の上に成り立っていた三人なのだろう。でも、三人で過ごした奇跡のような時間は博士の記憶には残らない。
ラストへ向けての展開は途中予感させる描写がある。
頭の隅に予感がちらつきながらも、予感が外れることを祈りながら読んでいた。著者の裏切りを期待した。
すっかり三人の関係が好きになっていたのだろう。
淡々と進むストーリーの終盤にきて、なにかが堰を切ったように溢れてきた。これって泣ける話だったのか?思い出すとまだなお涙が滲んでくる。記憶の中の『私』や『博士』や『√』が甦ってくる。

「僕の記憶は80分しかもたない」

けれど私の記憶は連綿と続いていく。その中には博士達三人の記憶も、大切な物語として深く刻まれた。

昨年映画館に映画を観に行った時、予告として「博士の愛した数式」が流れた。小川洋子という作家の名前は目にしていたとは思うが、特に意識しことも小説を読んだこともなかった。それなのに、予告編を観て映画をというより、小説の「博士の愛した数式」がどうしても読みたくて堪らなくなったのだ。その瞬間から小川洋子は私にとって特別な作家になった。
で、すぐに本を買って読んだかといえばそうではなく、文庫になっている他の作品をまず読んでみた。
すごく読みたいのに何故他にいく?!
一番の理由は単行本しか出ていなかったからだが、たまに周りから攻めてみるというアプローチをしてみたくなるのだ。もちろん素直に読みたいと思った本にまっすぐアプローチするのが常ではある。
去年11月文庫になった時すぐに購入したが忙しく、昨日やっと読むことができた。今年初めての読書がこの本だったことに感謝したいと心から思える作品だった。
この本に出会えてよかった。
| 小川洋子 | 17:00 | comments(6) | trackbacks(15) | | |

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♯ コメント

おはようございます
ヾ(@⌒ー⌒@)ノ

ついに、読まれたんですね。
うらやましいです〜。
新年から素敵な一冊で幕を開けることができて。
雪芽さんのお言葉を借りてしまうみたいだけれど、この本、私も年明けまでとっておけば良かったって思うくらい、印象的な本だったんです。
なんていうのかな、文章に散りばめられた描写が、ありえないくらいに綺麗で。
確か、『数式がレース編みのように手を取り合いながら、ダンスを踊る』みたいな一文があったのだけど、そのイメージが忘れられなくて。もちろん、実際は、もっと美しく書かれていましたけど(汗)

それにしても、
「繊細な均衡の上に成り立っていた三人」
そんな言葉を使いたかったです(笑)
このレビューも本と同じようにきっと記憶に残るのかなって、そんな風に思いました。

雪芽さんのレビューの前だとあらあらって感じですけど(笑)、TBさせていただきま〜す。
よろしくお願いします(o*。_。)oペコッ
| littleapple | 2006/01/09 10:18 AM |
雪芽さん、明けましておめでとうございます。
今年もどうぞよろしくお願いします。

私も数学大嫌いでした(苦笑)
なのに、雪芽さんと同じく、この本を読んで数字って、数学って、こんなに美しいものだったんだ・・って。

雪芽さんの記憶の中に深く刻まれた三人の物語。
出会えてよかった・・本当にそう思う本でしたね。
周りから攻めるアプローチ・・ふふ(笑)
そうそう、先になぜか違うのから読んじゃったりするんですよね。

映画、原作の「わたし」のイメージと深津さんがちょっと繋がらなくって・・
深津さんは、好きなんですけどね・・
でも映画は映画、また別ものですもんね。少し、時間をあけてから(ビデオとか出たら)見てみようかなあって思います。

| 瞳 | 2006/01/09 10:09 PM |
littleappleさん、こんばんは。
さっそくTBして頂いてありがとうございます。
こちらからもTBしにお邪魔しました。
伺う度に本のレビューが増えていて、読みたい本メモが増えるのが、嬉しいような困ったような(笑)

>文章に散りばめられた描写が、ありえないくらいに綺麗で。

この小説を読んでいる間中、数式が奏でる詩を読んでいるような感覚に、溜息が出る思いでした。
小川さんの小説は静謐で、そこに怜悧さと毒が垣間見えるクールな作風が特徴かと思っていましたが、この作品は描写の美しさは小川さんだけど、なにか優しく温かな空気が行間を満たしている印象でした。
とても愛おしく感じる本です。


瞳さん、こんばんは。
こちらこそ今年もよろしくお願いします。
またいろいろ本のお話出来るのを楽しみにしていますね。

瞳さんも数学嫌いですか。
良かったお仲間がいて(笑)
著者の小川さん、どうしてこんなに数学に詳しいのでしょう。
まずそこが凄い。
数学の数式が、こんなせつない小説になることに驚きです。

いますぐに映画を観るのはやっぱり無理かな。
自分の中のイメージが壊れてしまいそうです。
ビデオとかでレンタルされるくらいの間隔を置けば、大丈夫かしら。
いままでも小説、映画双方をみることが多いし、別物と考えるほうなので、大抵は気にならないのですけどね。
| 雪芽 | 2006/01/09 11:31 PM |
雪芽さん

ブログ拝見していたら、ちょうど最近この本を読んだのでTBはらせていただきました。

それから、オススメ本ありがとうございます。
早速アマゾンで注文したのですが、

 尾崎翠さんの「第七官界彷徨」

だけが、廃版なんですよね。
アマゾンのユーズドは3000円もするし・・・。
しょうがないのでブックオフとかで探してみます!!
| やぎっちょ | 2006/04/07 3:16 AM |
やぎっちょさん、こんにちは!
さっそく注文されたとのこと、感想を楽しみにお待ちしてますね。
やぎっちょさんのアンテナにピンとくる作品だといいですけど。
「第七官界彷徨」は表題になっていた単行本は廃版のようですね。私は古本屋で見つけて購入しました。
いまだとちくま文庫の「尾崎翠集成・上」に入っています。

お勧め本、アゴタ・クリストフの「悪童日記」をご紹介しようとしたのですが、NGワードに引っ掛かってしまいました。
この悪童シリーズ三部作も面白いんです。
三部作ですが「悪童日記」だけでも問題ありません。

TBありがとうございます。
あとでこちらからもお伺いしますね。
| 雪芽 | 2006/04/08 12:20 PM |
雪芽さん

こんにちは。やぎっちょです。
すみませんせっかく書き込んでいただいたのに・・・。
「童」を禁止ワードにしているのです。
すみませんでした。

悪童日記、早速購入しました。
読む本が多くて先になると思いますが、本がたまっているのが心地いいので。。。
「第七官界彷徨」は古本屋探してみます。最近よく行ってますので。

それにしても色々と本が出てきますね。知らない本ばかりでわくわくします。
アゴタ・クリストフって何かで聞いたことがあって、うわ、と思ったのですが、出している本を見てもしっくり来ないし、一体なぜ知っているんだろう?
| やぎっちょ | 2006/04/08 3:25 PM |

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