本や映画の感想、日々の雑感などを徒然に書いております
ネタバレもあるので未読の方はご注意ください
<< June 2020 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 >>
RECOMMEND

 極北ラプソディ 

  
読んだり観たり
雪芽さんの読書メーター 雪芽の最近読んだ本 雪芽さんの鑑賞メーター 雪芽の最近観たビデオ
読みたい!聴きたい♪
Blog散歩道
今年読んだ本
将棋○名人戦・順位戦●
≡ SPONSORED ≡
<< 「退屈姫君 海を渡る」 | main | 「ナラタージュ」 >>

*スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

| - | | - | - | | |

*「闇の左手」

闇の左手
アーシュラ・K・ル・グィン

セレム・ハルス・レム・イル・エストラーベン。
呪文のような長い名前を持つのはカルハイドの宰相で、失脚後には物語の主人公ゲンリー・アイと共に、ゴブラン氷原を逃避行する人物。反逆者エストラーベンとも呼ばれる。

この本はル・グィンの<ハイニッシュ・ユニバース>と称される作品群のひとつに連なるもので、ヒューゴー賞とネビュラ賞受賞に輝く作品でもある。
ハイニッシュ・ユニバースとは何か。
かつて超高度な文明を持つハイン人によって各惑星に人間型生命の種が蒔かれる。やがてハインの衰退に従い植民された惑星は忘れ去られる。それがハイン文明の再興に伴い失われた植民地の探索、エクーメンと名づけられる宇宙連合の設立へと進む。
ところがまたもや問題発生。連合創立300年を経過する頃に星間戦争が勃発して、多くの惑星は孤立状態に置かれてしまう。
そんな中文明を再構築したエクーメンの中核では、失われた惑星に使節を派遣し同盟を結ぼうとしているというのが、本書「闇の左手」時点での状況になる。

エクーメンから同盟の為に派遣された使節がゲンリー・アイ。
彼はひとり、雪と氷に閉ざされる<冬>と呼ばれる惑星ゲセンに降り立つ。ゲセンの国のひとつであるカルハイドでエストラーベンと出会い、熾烈な政争に巻き込まれたふたりは、氷原を横断するという苛酷な旅をすることになるのだ。
果してゲンリーは使命を果たすことができるのか。
徐々に変化していくエストラーベンとの関係は。

ここでゲセンの特異性について書いておく必要があるかもしれない。先にエストラーベンのことを書いた時、男とも女とも書かなかった。これは意図してそう書いた。なぜならゲセン人は男でもあり女でもあるという両性具有者だからだ。このことがゲセン社会や人との関係性、思考に及ぼす影響は大きい。
人の男であるゲンリーが感じる戸惑いは、ひいては読者の戸惑いでもあるかのようだ。異なる生理、文化を描く「闇の左手」への戸惑い困惑が、ゲンリーとセレムの関係同様、理解あるいは親密なものへと向うかは読者の手に委ねられている。

ル・グィンの冷静で美しく格調高い文章は、ゲンリーとセレムが経験する苛酷な体験と、友情が生まれていく過程を克明に描いて圧巻だ。彼女の筆致は美しくあるが情緒的な感傷に流されることはない。
物語の半分近くを費やして語られる氷原の旅の描写を読むと、凍てつく寒さの感覚、身を切る痛さが実際のものとして迫ってくる。後半の大部分を占める逃避行、だがそこにスリリングな面白さを期待してはいけない。作者が描こうとしているのはもっと別なところにある。
旅の苛酷さが増していくのと反比例するように、ふたりの間に流れる友愛の情は深くなっていく。読んでいてとくに好きなのはこの過程だった。
途中に挿入されるゲセンに伝わる民話も、物語世界に多重奏的響きを与えている。とくにセレムとアレクにまつわる話は現在の反逆者エストラーベンに二重写しに響く。そしてその息子の存在へと。

セレムの兄が残した遺書に記されていたトルメルの歌がある。

光は暗闇の左手
暗闇は光の右手。
二つはひとつ、生と死と、
ともに横たわり、
さながらにケメルの伴侶、
さながらに合わせし双手、
さながらに因‐果のごと。


セレムが陰(イン)陽(ヤン)の絵を描いてゲンリーに意味を問う場面がある。
陰は陽を含み、陽は陰を含む。相反する性質を持ちながら陰陽は対立する絶対的なものでなく、常に変化し同源とみなすのが陰陽説だ。他でも『天のろくろ』に荘子の言葉が引用されていたり、ル・グィンの作品には昔の中国の思想家の影響を受けたと思われる部分が見かけられる。

「闇の左手」を最初に読んだのはずいぶん前のことになる。
時間の経過というものは記憶の一部を美化するものらしい。エストラーベンがいつの間にか長身痩躯の美中年になっていたことに気づかされた。いやはや。
イメージはだいぶ狂ってしまったが、それでもエストラーベンが物語中でみせる決断力や行動力は格好良くて、結局好きな登場人物であるのは再読後も変わらない。

| A・K・ル・グゥイン | 17:02 | comments(2) | trackbacks(0) | | |

*スポンサーサイト

| - | 17:02 | - | - | | |

♯ コメント

雪芽さん、懐かしいわ、これ。
私もずいぶん前に読んだので、今雪芽さんの感想読みながら思い出していました。
>光は暗闇の左手 暗闇は光の右手
ここはうっすらと記憶にあります。
そして文章がとても美しかったこと、でもちょっと人を寄せ付けないような・・そんな冷たさもまた魅力であったように思い出します。
う〜ん、どこにしまっただろう(汗)並べきれない文庫本を収納ケースにしまったのです・・
読みたくなってきましたよ〜(笑)
| | 2006/03/05 8:51 PM |
瞳さん、こんばんは。
そうでしょ、いまでは懐かしい香りのする古典SFですよね。
ハインライン、アシモフ、クラークの御三家や、
ル・グィンとブラッドベリは昔夢中で読みました。
「紅はこべ」といい、最近はブログの感想を書くのに昔読んだ本を再読することも多くて、読むと懐かしい記憶が甦ってくるんです。

瞳さんのお宅の本の山に埋もれている「闇の左手」は、
懐かしのコサック帽を被ったおじさんの表紙でしょうか。
いまのはなんだか宇宙ハリネズミみたいですよね(笑)

昨日はブログでなくHPのほうへお邪魔して、
紅茶のお話読ませて頂いていたんですよ。
最近またちゃんと葉っぱから紅茶を入れて飲みたくなって。
今度は足跡も残しますね〜
| 雪芽 | 2006/03/06 10:44 PM |

♯ コメントする









コメントをプレビューする?
ご利用のブラウザ、設定ではご利用になれません。


♯ この記事のトラックバックURL

♯ トラックバック

ABOUT
SELECTED ENTRIES
CATEGORIES
ARCHIVES
TRACKBACK
ありがとうございます
COMMENTS
ありがとうございます
LINKS
MOBILE
qrcode
OTHERS